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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)1804号 判決

東京都千代田区外神田四丁目七番二号

原告

株式会社佐竹製作所

右代表者代表取締役

佐竹覚

右訴訟代理人弁護士

柏木薫

山下清兵衛

池田昭

小川憲久

松浦康治

柏木秀一

右輔佐人弁理士

稲木次之

押本泰彦

松山市馬木町七〇〇番地

被告

井関農機株式会社

右代表者代表取締役

須藤昌宏

右訴訟代理人弁護士

安原正之

佐藤治隆

小林郁夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、別紙物件目録(一)ないし(四)記載の籾摺選別機を製造し、譲渡し、又は譲渡若しくは貸渡のために展示してはならない。

2  被告は、別紙物件目録(一)ないし(四)記載の籾摺選別機及びその半製品(成形工程を完了するも組立工程を完了するに至らないもの)を廃棄せよ。

3  被告は、原告に対し金三億四七一四万二六五〇円及びこれに対する昭和六一年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  第3項について仮執行宣言。

二  被告

主文同旨。

第二  請求原因

一  本件特許権

原告は左の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有する。

1  発明の名称 撰別機

2  出願日 昭和三四年二月三日

3  出願公告日 昭和五七年二月二三日

4  登録日 昭和六〇年一一月二九日

5  登録番号 第三二〇二七四号

本件発明の特許請求の範囲の記載は、別添公報写し(以下、「本件公報」という。)の該当欄記載のとおりである。

二  本件発明の構成要件、作用及び効果

1  本件発明の構成要件を分説すれば次のとおりである。

a 一方側を供給側Hとし、供給側Hに対する反対側他方を排出側Lとし、供給側Hを高く、かつ排出側Lを低く配置することにより、供給側Hより排出側Lに向って異種混合穀物粒が徐々に流動するように構成した粗雑面よりなる無孔の撰別盤1に、

b 穀物粒の前記流動する方向(以下「流下方向」ということがある。)に対して左右側の方向(以下「左右方向」ということがある。)に斜上下の往復動を与えると共に、

c その揺上げ側に側壁を設け、

d もって、撰別盤上の混合粒のうち、比重の大なる穀物粒を揺上側H1方向に隆積させ、比重の小なる穀物はその反動で反対側に偏流させて分離させるようにしたものにおいて、

e 前記無孔の撰別盤1を複数段多段状に重架させてなる撰別機。

2  本件発明の作用は次のとおりである。

a 撰別盤1を本件公報第一図の矢印Wのように左右方向に斜め上下に往復動させる。

b 籾粒と玄米粒の混合粒を各段の撰別盤1の供給側Hに均等に供給する。

c 供給された混合粒は、その盤面上で斜め上下の往復動を受けることによって、第一次現象として、その混合粒のうち玄米粒が下層に沈下し、籾粒が玄米粒の上層に浮上し、第二次現象として、下層に沈下した玄米粒が側壁3方向に揺寄せられて揺上側方向に隆積し、上層に浮上した籾粒がその反動で反対側に偏流し、玄米粒と籾粒とに分離されながら排出側L方向に流動する。

d 即ち、玄米粒は供給側Hから揺上側方向を流動して排出側Lに排出され、籾粒は供給側Hから揺下側方向に偏流して排出側Lに排出され、中間粒は供給側Hから揺上側と揺下側との中間を流動して排出側Lに排出される。

3  本件発明の効果は、次のとおりである。

a 玄米粒に対する砕粒等の特殊な混合穀粒でも高精度の撰別ができる。

b 単一段の無孔撰別盤では得られない高能率の撰別が得られる。

c 撰別過程において目詰りや散流を生ぜず、安定した撰別ができる。

d 撰別盤1の下部に通風装置を必要としないことから、各撰別盤間の距離が短くなり全体の高さが低くでき、振動に対する安定性が付与され、しかも構造が簡単となって重量も小さくてすむ。

三  被告製品の構造

被告の製造、販売にかかる四種類の籾摺選別機(以下、「被告製品」と総称する。)は、別紙物件目録(一)ないし(四)記載のとおりである。

四  被告製品の構成、作用及び効果

1  被告製品の構成の分説

A 選別板21は、アルミニウム合金の無孔の薄板からなり、後側を供給側H、前側を排出側L、右側を右側U、左側を左側Dとし、上方からみると前後側がやや長い長四角形状であり、供給側Hは排出側Lより高く、右側Uは左側Lより高く、二方向に傾斜しているので、選別板21が揺動すると、分配供給樋19から誘導部22を経て供給された混合米は高い供給側Hより低い排出側Lに向かって徐々に流動するようになっている。しかして、選別板21の盤面には、各物件目録記載の形状及び寸法の突起54が多数形成されている。

B 選別板21は載置枠29上に重架され、載置枠29には左斜杆30の上端を軸32により、右斜杆31の上端を軸33によりそれぞれ軸止する。左斜杆30の下端は台枠34の上面に設けた軸受体35に軸36で軸着される。右斜杆31の下端は台枠34の上方位置に設けた軸37に軸着される。左斜杆30と右斜杆31とは平行関係に位置し、軸32と軸36との距離は軸33と軸37との距離と等しくされている。

左斜杆30は、軸36を基部とし、垂直線に対し左に三〇度傾斜して設けられ、クランク軸52の回転によりその角度から左右両方向にそれぞれ七度の範囲で往復揺動するので、載置枠29上に重架された選別板21に、混合粒の流下方向に対して左右方向に斜上下の往復動が与えられる。

C 選別板21の右側Uに直角起立状の側壁23が設けられている。

D 供給された混合粒は選別板21の供給側Hより排出側Lに向かって徐々に流動しながら、斜め上下の往復動を受けることによって、第一次現象として、玄米粒は下層に沈下し、籾粒は玄米の上層に浮上する。そして、第二次現象として、下層に沈下した玄米粒は、側壁23方向に揺り寄せられて右側U方向に隆積し、上層に浮上した籾粒はその反動で左側D方向に偏流して、徐々に排出側L方向に流動する。

E Aに述べたような無孔の選別板21を複数(物件目録(一)のものは二枚、同(二)のものは三枚、同(三)のものは四枚、同(四)のものは五枚)多段状に重架させた選別機である。

2  被告製品の作用は、次のとおりである。

A クランク軸52を回転させると、左斜杆30及び右斜杆31が選別板21を載置した載置枠29に斜めに軸着されている関係上、選別板21は左右両方向にそれぞれ七度の範囲で斜め上下に往復揺動する。

B 籾米と玄米との混合粒を貯留タンク13から分配供給樋19を経由して各段の選別板21の供給側Hにそれぞれ均等に供給する。

C 供給された混合粒は撰別盤21の供給側Hより排出側Lに向かって徐々に流動しながら、斜め上下の往復動を受けることによって、第一次現象として、玄米粒は下層に沈下し、籾粒は玄米の上層に浮上する。そして、第二次現象として、下層に沈下した玄米粒は、側壁23方向に揺り寄せられて右側U方向に隆積し、上層に浮上した籾粒はその反動で左側D方向に偏流して、徐々に排出側L方向に流動する。

D 即ち、玄米粒は別紙物件目録(一)ないし(四)の各第三図の玄米取出口26から排出され、籾粒は同図の側壁23に沿って流動して籾取出口27から排出され、分類されない混合粒は、同図の混合米取出口28から排出される。

3  被告製品の効果は、次のとおりである。

A 玄米粒に対する砕粒等の特殊な混合穀粒でも高精度の選別ができる。

B 単一段の無孔撰別盤では得られない高能率の選別が得られる。

C 選別作用に目詰りや散流を生ぜず、安定した選別ができる。

D 選別板21の下部に通風装置を必要としないことから、各選別板の間の距離が短くなり、全体の高さが低くでき、振動に対する安定性が付与され、しかも構造が簡単となって重量も小さくてすむ。

五  被告製品と本件発明との対比

1  構成について

被告製品の構成A、B、C、D及びEは本件発明の構成a、b、c、d及びeの全てを具備している。

なお、被告製品の選別板21の板面上の突起54は、選別板を水平に揺動した場合でも選別作用が認められる。しかし被告製品は、選別板を水平に揺動させるのではなく、斜上下に揺動させるのであり、そのことによって選別効率の向上を達成しているから、被告製品のこの構成は、本件発明の選別原理を実施したものにほかならない。

2  作用及び効果について

被告製品の奏する作用、効果は、本件発明の奏する作用、効果と同一である。

3  被告製品は、本件発明の構成要件の全てを充足しているとともに、その作用及び効果も同一であるから、被告製品は本件発明の技術的範囲に属する。

六  被告製品の製造販売

被告は、本件発明の出願公告日である昭和五七年二月二三日より昭和六〇年一二月までの四年間に、被告製品を左記のとおり製造販売し、合計金六億六七一三万九八〇〇円の利益を得た。

〈省略〉

被告の前記期間の売上高合計は金六六億七一三九万八〇〇〇円であるところ、その利益率は一〇パーセントであるので、利益額は合計六億六七一三万九八〇〇円であり、右は原告の被った損害額と推定される。

七  よって、原告は被告に対し、被告製品の製造販売等の差止及び廃棄(半製品の廃棄を含む。)と、特許権侵害に基づく損害賠償として、右損害額の内金である三億四七一四万二六五〇円及びこれに対する右侵害行為の後の日である昭和六一年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三  請求原因に対する認否、被告の主張、抗弁

一  請求原因一は認める。

二1  請求原因二1は認める。

ただし後記五2において述べるように、本件発明は、原告主張の要件の外に、撰別盤1が左右方向水平なことも要件とするものである。

2  同2は否認する。右の本件発明の作用の記載は、本件公報に徴し何れも正確でないので、左記に従うべきである。

(一) 撰別盤1、1の左右側のうち、一方側には、穀物が突当ることによって隆積される側壁3を設け、その反対側には落粒防止用側壁4を設け、撰別盤1、1の排出側Lには穀物の過剰流出防止壁5を設け、雑粒混合穀物は前述両側壁3、4にそれぞれそって徐々に流出し、前記防止壁5により隆積した状態のまま排出される(本件公報三欄七行目ないし一四行目参照)。

(二) 籾米粒と玄米粒の混合粒を供給タンク16より各段の撰別盤1、1…の供給側Hに均等に供給し、偏心輪14を回転させて撰別盤1、1を揺動させると、支台2を取付けている支杆12、12が斜めに軸着6、7されている関係上、矢印Wのごとく左右側に斜め上下動をする(本件公報三欄一九行目ないし二四行目参照)。

(三) 斜め上下のあおり運動を受けた混合粒は第一次現象として比重の大なる玄米粒は下層に沈下し、比重の小なる籾粒は玄米粒の上層を浮上する。そして、下層に沈下した玄米粒は、第二次現象として、側壁3方向に揺寄せられて隆積し、上層に浮上した籾粒は、その反動で反対側に偏流し、この状態を保ちながら、徐々に、排出側L方向に流動し、玄米は、第1図のE1線のごとく流動して排出される。籾粒は、逆にE3線をもって表示したごとく揺下側に向って集合して落粒防止用側壁4にそって偏流する。分離されない混合中間粒は、E2のように排出される(本件公報三欄二七行目ないし四欄五行目参照)。

3  同3も否認する。本件発明の効果の記載は、本件公報に徴し何れも正確でないので、左記に従うべきである。

(一) 撰別盤を無孔とすることによって、穀粒間の密度を大にし、その斜め上下の揺動によって穀粒間の摩擦を利用しながら穀粒の分離をうながして撰別を行い(本件公報四欄六行目ないし一〇行目参照)、

(二) 玄米粒に対する砕粒等の混合粒のように空気流に対する抵抗に差が小さく穀粒間の摩擦に差のある特殊な混合穀粒でも高精度の撰別ができ、かつ、撰別作用に目詰まりや散流を生じず、安定した撰別ができ(本件公報四欄一〇行目ないし一四行目参照)、

(三) しかも、単一無孔撰別盤では得られない選別能力が得られると共に、各撰別盤の間隔を小さくすることができるので、全体の高さが低く振動に対する安定性があり(本件公報四欄一四行目ないし一七行目参照)、

(四) 通風のための装置を必要としないので、構造が簡単となって重量も小さくてすむ撰別機を提供できる(本件公報四欄一七行目ないし一九行目参照)。

三  請求原因三(被告製品の構造)は認める。

四  請求原因四(被告製品の構成、作用及び効果)は否認する。

被告製品の構成、作用及び効果は次のとおりである。

1  被告製品の揺動選別部の構成

(一) 選別板21は、アルミニユウム合金の無孔の平滑な薄板からなり、板面には各物件目録に記載の形状及び寸法の突起54が多数形成されている。この突起54には、板面に対して約七〇度の立上り角度を有し、穀粒を右側Uに押送するA面が形成されている。この選別板21は、後側を供給側H、前側を排出側L、右側を右側U、左側を左側Dとし、上方から見ると前後側がやや長い長四角形状であり、供給側Hは排出側Lより高く、また、右側Uは左側Lより高く、二方向に傾斜している。

そして、分配供給樋19から誘導部22を経て、選別板21における供給側Hで且つ右側Uに構成されている供給口68から混合米が供給される。選別板21に供給された混合米は、選別板21が静止状態のときは静止しているが、選別板21が揺動すると、選別板21の対角線方向である、供給側Hの右側Uから排出側Lの左側Dに向かって、徐々に流動するようになっている。

(二) 選別板21は載置枠29上に重架され、載置枠29は左斜杆30の上端を軸32により、右斜杆31の上端を軸33によりそれぞれ軸支する。左斜杆30の下端は台枠34の上面に設けた軸受体35に軸36で軸着される。右斜杆31の下端は台枠34の上方位置に設けた軸37に軸着される。左斜杆30と右斜杆31とは平行関係に位置し、軸32と軸36との距離は軸33と軸37との距離と等しくされている。

左斜杆30は、軸36を基部として、垂直線に対し左に三〇度傾斜して設けられクランク軸52の回転によりその角度から左右両方向にそれぞれ七度の範囲で往復揺動する。従って、載置枠29上に重架された選別板21に混合粒が供給されると、混合粒の流動方向である選別板21の対角線の方向に対して、斜左右側の方向に斜上下の往復動が与えられる。

(三) 選別板21の右側Uに直角起立状の側壁23が設けられている。

2  被告製品の揺動選別部の作用及び効果

(一) 選別板21の供給側Hの右側Uに形成された供給口68より籾米と玄米の混合粒を供給すると、その混合粒は玄米であると籾米であるとを問わず、まず高い右側Uの供給口68から低い左側Dに向かって左右方向に流下する。

(二) この流れのうち、比重の重い玄米粒は比較的下層を板面に形成されている突起54に接触しながら左右側約一四度の傾斜に沿って流れ、比重の軽い籾米粒は比較的上層をあまり板面の突起54に接触することなく流れる。このように比較的下層を板面の突起54に接触しながら流れる玄米粒はその流れは遅く、そのまま板面全体に分散するが、選別板21の傾斜揺動に伴う突起54の揺寄せ作用を受けて右側Uに揺寄せられて分離する。比較的上層をあまり板面の突起54に接触することなく流れる比重の軽い籾粒は、突起54との接触は殆どないので、左右側約一四度の傾斜に従い、玄米に先んじて左側Dに流れ、殆どの籾米は左側Dに分布する。

(三) この状態になると、左側Dに分布した籾米は、全粒が突起54と直接接触し、突起54の揺寄せ作用を受けるが、籾米は比重が軽いので、突起54の揺寄せ作用は玄米に比し弱く、左側Dに分布したままとなる。

(四) 右のように分布された玄米及び籾米は、排出側Lが低い横四度の傾斜に沿い徐々に排出され、三〇度の揺動角度でも〇・〇%の完全分離が期待できる。

五  請求原因五は否認する。被告製品は、本件発明の構成要件a及びdを具備しない。

1  構成要件aの「粗雑面」を欠如することについて

(一) 粗雑面の内容は、「玄米粒を斜上に揺り上げるときの滑り止めに必要な流動摩擦抵抗を生じるようなザラザラした面で、その凹凸の程度は撰別しようとする穀粒より大きなものではなく、かつ、方向性を有しないもの」と解すべきである。

(二) 右の根拠は、次のとおりである。

(1) 被告が特許権者である昭三三-七六五九号をもって、昭和三三年八月三〇日に公告された揺動籾撰別機に関する発明(以下、「被告特許」といい、その公告公報は本判決に添付された写しのとおりである。右公報を「被告特許公報」という。)は、その実施例図に示された構造からすると、傾斜往復揺動するものであることは明らかである。即ち、被告特許公報の実施例図に示されている構造において、可動支持杆6は、左側には移動しないで右側だけに倒れるように下端が固定台に取付けられており、流樋1は可動支持杆6の上端に固定されている。右構造では、主軸3及びクランク4が矢印方向に回転を開始すると、クランクロッド5が矢印WあるいはW’の方向に往復動し、これにつれて当初垂直状態にあった可動支持杆6は、その下端を中心としてその上側部分が右側に倒れるように移動し、その後当初の垂直状態に戻るという往復運動をするから、右可動支持杆6の上端は右側に傾斜揺動するものであり、右可動支持杆6の上端に固定されている流樋1は、右可動支持杆6とともに同方向に傾斜往復揺動する。

そうしてみると、被告特許において流樋1には穀粒を一定方向に片寄せる方向性のある揺寄突起が構成されており、本件発明の粗雑面の範囲に方向性のある凹凸形状のものを含むとすると、本件発明が出願前の公知技術を含み無効理由を包含することになるので、本件発明の有効性を前提として合理的に解釈すれば、当然本件発明の「粗雑面」は、単なる凹凸形状に限定され、方向性を有する揺寄突起の形状のものは含まれないというべきである。

原告は、斜め上下の往復方向に揺動する撰別盤と組み合わされた凹凸形状は、その形状、大きさ及び作用を問わず、本件発明の「粗雑面」に該当すると主張するが、本件発明の粗雑面とその形状及び作用を異にする揺寄作用により穀粒を選別する乙第二号証の揺寄突起が、斜め上下に揺動する撰別盤と組み合わせられても、その選別作用は頂端線による揺寄作用によるものであり、摩擦抵抗作用により穀粒を選別する粗雑面にその性質を変えるわけではない。

(2) 本件発明は、原告の特許出願である特願昭三四-三四六八号(以下「原出願」といい、その発明を「原発明」という。)を分割して出願されたものであるが、原出願の出願からの経過の概要は、以下のとおりである。

ア 昭和三四年二月三日 佐竹利彦名義による特許出願(特願昭三四-三四六八号)。

イ 昭和三四年一〇月二二日 実公昭二七-七八三一号公報に記載された考案から容易にできたことを理由とする拒絶理由通知。

ウ 昭和三五年二月一日 明細書の記載を、加筆、削除する方法による出願訂正、願書に添付した図面を訂正書により訂正。

エ 昭和三五年二月一〇日 特許を受ける権利を原告に譲渡。

オ 昭和三五年二月二三日 特公昭三三-七六五九号公報(被告特許)に記載された発明から容易にできたことを理由とする拒絶理由通知。

カ 昭和三五年四月五日 意見書提出、明細書及び図面を訂正書により訂正。

キ 昭和三五年一〇月三日 特許出願公告(特公昭三五-一四四六八号)。

ク 昭和三五年一一月三〇日 異議申立人被告から異議申立て(特公昭三三-七六五九号及び特願昭和三一-一九六〇一号の明細書及び図面から容易に発明できたことを理由とする)。

ケ 昭和三六年八月七日 特公昭三三-七六五九号の明細書及び図面から容易にできたことを理由とする特許異議理由ありの決定と拒絶査定。

コ 昭和三八年一一月二七日 抗告審判請求は成り立たない旨の審決。

サ 昭和四八年二月一六日 審決を取り消す旨の判決(昭和三九年行ケ第二号事件)。

シ 昭和四九年五月二〇日 原出願から本件特許出願が分割出願される。

ス 昭和四九年七月二四日 本願発明は特許する旨の審決。

(3)ア そこで分割出願である本件特許の元になった原出願の審決取消訴訟(昭和三九年行ケ第二号)における原告自身の主張を見ると、原告は、「本願発明の撰粒盤の表面には、縦振動により米粒を斜上に揺り上げるときの滑り止めに必要な流動摩擦抵抗を生ずるようにザラザラした粗雑面が形成されており、その凹凸の程度は、撰別しようとする穀粒より大きなものではなく、かつ、方向性を有しないものである」、「各引用例の揺寄せ突起は、下層の玄米層を角度を有する突起の頂端線により横方向に押送するものであり・・・・少なくとも穀粒と同等もしくはそれ以上の高さがあって押送できることを必要とし、そのうえ、揺寄せ突起には横側、横斜側、左側、右側等特殊な方向性が必須の要件となるものである。即ち、各引用例のものは、流動摩擦抵抗という範囲をはるかに越えた水平押送作用をする特殊な方向性を有する揺寄せ突起であるから、本願発明でいう粗雑面とは、その範囲を全く異にした別種のものである。」と主張し、「粗雑面」と「乙第二号証の揺寄突起」とは別の概念である旨述べている。

またこれを受けて、東京高等裁判所が昭和四八年二月一六日、右事件について言い渡した判決において、「本願発明においては、粗雑面を形成する凹凸の方向性については、特に意図するものがないものと認められるところ、成立に争いのない甲第四号証(被告特許公報)によれば・・・・・穀粒を流樋の一側壁に対し一定角度をもって片寄せるとともに、さらに流動方向に流動させるという、該方向に一定角度傾いている方向性を有するものであり、したがって、この突起t1、t2を多数整列したものを有する第一引用例(成立に争いのない甲第五号証によると、その出願明細書である第二引用例も、この点においては同じ。)の流樋は、本願発明の粗雑面とは、その構成を異にするものといわざるをえない。」とし、「粗雑面」と「乙第二号証の揺寄突起」とは、別の概念であるとの認定がなされている。

イ このように粗雑面の形状については、下層に沈下した穀粒に対する粗雑面の摩擦抵抗作用は、粗雑面の穀粒より小さな凹凸の上面に穀粒の下面が接触支持される状態のみで作用する凹凸形状に限定されると原告において主張し、右判決もこれを採用したものである。

ウ 次いで、本件発明が原出願の公告後の分割出願であるところ、分割出願が有効であるための要件は、分割出願をしようとする発明が、もとの特許出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に開示されていることと、分割出願の際にも、もとの特許出願の願書に添付されている明細書又は図面にも開示されていることである。

これを前提とすると、本件発明が分割出願された昭和四九年五月二〇日の時点は、原出願の出願手続きは、前記審決取消訴訟事件における審決を取り消す判決がなされた後の抗告審判手続中であり、また、特許出願公告後でもあるので、原出願の願書に添付した明細書または図面には、前記アの特許出願人が自ら限定した粗雑面の技術内容しか存在していないことになる。

従って、分割特許出願にかかる本件発明の粗雑面も、このように限定された内容である。

原告のように、粗雑面の内容を拡張解釈し、「本件発明の粗雑面の一部に揺寄突起の一部のものが含まれる」という主張をすることは、本件発明が分割要件を具備しておらず、無効であることを自認していることになる。

(三) このように本件発明の粗雑面は、流動摩擦抵抗を生じさせるものであるが、その場合には、斜右上方へ揺動運動をするときに、粗雑面に平行な力が玄米粒の摩擦力より大きくなると、玄米粒は相対的に左側にすべりながら粗雑面との間に動摩擦力が働きつつ、右斜上方への粗雑面の揺動運動に追随し、粗雑面の揺動する力が一部減少しつつ間接的に玄米粒に作用する。これに対し、被告製品の突起のある選別板を斜上下に往復動させた場合には、右斜上方への揺動運動をするときに、突起の横側面Aに玄米粒の左側端部が接触支持されるとともに、選別板の底面で玄米粒の下面が支持されているので、玄米粒の下面の選別板の盤面に対する静止摩擦よりも、選別板の板面に平行な力が大きくても、玄米粒は突起との関係をそのまま保ちながら斜右上方に揺動され、突起の横側面により揺動する力が減少せずに、そのまま直接的に玄米粒に作用する。

したがって、被告製品の選別板の場合には、突起の横側面で玄米粒を押送して摩擦力を使用しないで選別するのに対し、本件発明の粗雑面の場合には、玄米粒の下面と粗雑面との摩擦力により、玄米粒を移動させながら選別するものであり、両者は異なる。

2  構成要件aに含まれていると解すべき「撰別盤1の左右方向水平」の点及び構成要件dの「隆積」を欠如し、選別原理も異にする。

(一) 本件発明は、原出願から分割出願されたものであるが、原出願には「撰別盤1が左右方向水平のもの及び左右方向傾斜のものの二の実施例が含まれていた」ところ、本件発明の明細書には「撰別盤の左右方向が傾斜している」旨の記載が全くなされていないこと、また図面には「撰別盤が左右方向水平のもの」しか記載されておらず、また「左右方向傾斜」のものにまで拡張される理由が存在しないことからすると、本件発明はその中の一の「左右方向水平のもの」を取り出し分割出願したものというべきであるから、右の「撰別盤が左右方向水平であること」も本件発明の要件であると解すべきである。

(二)(1) 本件公報の記載及び本件発明の出願明細書(乙第三一号証ないし乙第三三号証)の記載からも、撰別盤の左右方向水平の撰別作用が記載されており、左右方向水平のものに限定されることが明らかである。即ち、本件発明の特許請求の範囲には、「もって、撰別盤上の混合粒のうち、比重の大なる穀物粒を揺上H1方向に隆積させ、比重の小なる穀物はその反動で反対側に偏流させて分離させる」という記載があるところ、この記載のうち、特に、「比重の大なる穀物粒を隆積させ、その反動で比重の小なる穀物粒を反対側に偏流させて分離させる」という記載を本件発明の明細書の発明の詳細な説明の記載等に基づいて検討すると、「隆積」とは、「玄米粒が揺寄せられて側壁3に突き当たることにより揺寄側が層厚になり、この玄米粒により形成される層厚部分の上面には、揺上側が高く揺下側が低い傾斜面が形成される」という現象をいうものであり、また「その(隆積の)反動で籾粒を反対側に偏流させる」とは、前述の隆積現象に続いて、「撰別盤の揺下側への復動及び層厚穀物粒が側壁3に突き当たることによる反動により、隆積により形成された玄米粒の層厚部分の上面に形成される揺上側が高く揺下側が低い傾斜面に沿って、玄米層厚の上層に浮上している籾粒が揺下側へ流下する」という現象をいうものである。

また本件特許出願の経過書面についての記載をみると、原告が昭和四八年五月二〇日に提出した本件出願の願書に添付した明細書には、「よって、工夫した本発明は、粗雑面をなす撰別盤を、偏心機構により左右側の斜め上下の往復揺動させるとともに、その揺上側に穀物を高積みさせうる側壁を形成し、そのような撰別盤を多段状に重架し、穀物は側壁にそって流出するように構成する」、「撰別盤1、1の揺上側には穀物が突き当たることによって高積みされる側壁3を設け」、「籾と玄米の混合粒はともに揺上側の方向に揺り上げられ、揺上側に形成されている側壁3に衝突して高積みされることになる」という記載があり、これらの記載からすれば、「揺上側への往動により撰別盤の揺上側の側壁に穀粒が突当たり、他の部分よりも穀粒層厚が厚くなる」ことを、隆積という言葉で表現していることが明らかである。

(2) 本件発明と密接な関係のある原出願から分割された他の特許出願である特公昭五七-九八七一号公報(乙第三四号証)及び特公昭五八-三三〇三四号公報(乙第三五号証)には、「縦方向に水平で横方向に傾斜している撰別盤」が図示されており、その作用について明細書の記載からすると、右は隆積及びその反動による撰別理論で撰別されているものである。

それに対し、特公昭五六-五二六三三号公報(乙第一九号証)には、「縦方向及び横方向共に傾斜している撰別盤」が図示されていて、かつこれで混合米を撰別する場合には、「揺上側への往動により下層に沈んだ玄米を粗雑面の摩擦抵抗により引っ掛けてH側の高く傾斜した側上に移動させ、揺下側への復動の際に、上層に浮上した籾を撰別盤の縦方向の傾斜角により形成された傾斜面に沿って急速に下降させ、玄米と籾とが分離撰別される」ものであり、「縦方向に水平で横方向に傾斜している」場合の「隆積及びその反動」による選別理論とは、異なる選別理論で選別されていることが明らかである。

(3) そこでこれらの記載から検討すると、「隆積」とは、「防止壁3に比重の大なる穀粒がせきとめられて、揺上側が厚く揺下側が薄い穀粒層厚が形成され、この層厚になった比重の大なる穀粒の上面には、揺上側が高く揺下側が低い傾斜面が形成される」という現象をいうものであり、また「その(隆積)反動で比重の小なる穀物粒が反対側に偏流する」とは、「隆積されて層厚になった比重の大なる穀粒自身の上面に形成される揺上側が高く揺下側が低い傾斜面を利用して、揺下側への揺動運動、及び側壁3に穀粒が衝突した反作用により、上層に浮上した比重の小なる籾粒が揺下側に流動する」という現象をいうものであることが明らかとなる。そうすると、このような「隆積とその反動」という現象を利用して穀粒を選別するものが、本件発明であるところ、このような選別現象は撰別盤が左右方向に水平であるときにのみ生じる特有のものである。

(4) これに対し、被告製品の選別板21は、揺上側が高く揺下側が低くなるように左右方向に傾斜しているので、傾斜下方側である揺下側への玄米の流下が速くなり、ここでいう玄米粒の隆積現象が阻害されて、穀粒が盤面全体に略々均一の層厚で分布し、隆積現象が発生しない。このことを更に具体的に説明すると、選別板上には左右方向の揺上側から揺下側にかけて、略々均一の穀粒層厚が形成され、選別板が傾斜高位側に揺動することにより籾粒及び玄米粒の混合穀粒を揺上側に揺寄せ、次いで、揺下側に復する揺動運動により、選別板の穀粒層厚上層の籾粒が、選別板の左右方向の傾斜面により形成される穀粒上面の傾斜面に沿って揺下側に偏流するという現象、即ち、主として選別板の左右方向の傾斜面を利用しながら選別するものであり、本件発明とはその選別原理も異にする。

六  請求原因六中、原告主張の機種を製造販売したことは認めるが、単価、販売台数、売上高の記載はすべて否認する。

七  抗弁

1(一)  被告製品の選別板21には突起54が多数整列配置されていて、その突起54は、板面からの立上がり角度約七〇度で、且つ、玄米粒の高さに略等しい高さ一・八ミリメートルで玄米粒を押送するA面66、及び、立上がり角度約二三度のB面が形成されていて、このA面が穀粒の流下方向に対して約四〇度の角度を保って多数整列配置されていて、A面の頂上には長さ約三・八ミリメートルの頂端部分55が形成されているので、このような突起54を無数に整列配置している板面が、イセキ特許の揺寄せ突起を有する選別板であることは明らかである。

被告製品は平均二二度の揺動角を持たせて揺動させているが、被告特許も、被告特許公報実施例において約二〇度の角度で揺動させる事例を開示しており、被告製品は、被告特許を忠実に実施したものである。

(二)  そうしてみると、被告製品は、本件発明の先願の地位に立つ被告の有する特許権を実施しているものであるから、後願である原告の本件特許権について侵害が成立することはない。

2  権利濫用の抗弁

(一) 本件発明の撰別盤1は、左右側に、水平状態として図示されているが、原出願では、撰別盤1が左右側に約二四度傾斜して図示されており、この点は原出願には記載されていない要旨変更である。

(二) また選別理論を見ても、原出願の分離、選別とは、

(1) 撰別盤1が左右側に傾斜αしているので、流動抵抗の大なる籾は上流せず左右側の低い側に向かい流下する、

(2) 転動しやすい玄米は、撰別盤1の斜上下の揺動角βが、撰別盤1の左右傾斜角αより大きいので、粗雑面の抵抗によって斜上高部に押進されるとともに、撰別盤1が低方向に復する瞬間その関係位置にズレを生じ、撰別盤1に対して左右側の高い側に前進し、この振動運動を反復するので連続的に籾と玄米を左右の高低両側に偏流される、

(3) それぞれの側壁5、6に沿い流下方向の排出部Lに、籾と玄米を撰出する、

というもので、撰別盤1を左右側に傾斜させておくと、籾は左右の低い側に流れ、玄米は左右の高い側に押進されるという選別理論であり、そこには、玄米の隆積も、籾の反動分離も存在しない。

(三) これに対し、本件発明の撰別盤1の分離、選別は、

(1) 撰別盤1は左右側水平で傾斜していないので、混合粒が低い側に流れるという現象は起きず、斜上下の揺動を受けて揺上側方向に移動し、比重の重い玄米が揺上側に「隆積」する。

(2) そして前記隆積した玄米の上層には籾米が浮上し、浮上した籾米は、反動で反対側に偏流して分離する、

というものであり、本件発明の撰別盤1では、まず玄米が「隆積」し、その反動で籾が分離するのであるから、原出願の撰別盤1の分離選別とは全く異質である。しかして、撰別盤1が左右側に傾斜していると、前記のように低い側に流動抵抗の大なる籾が流下するのであるから右隆積は生じない。隆積を生じさせ反動で分離させるためには、撰別盤1は左右側に水平とせざるを得ず、そのため本件発明は、撰別盤1を左右側水平と変更したものである。

(四) このように、原出願では、左右側に約二四度傾斜していた撰別盤1を左右水平の撰別盤1に変更し、これに加え、原出願には記載のない「隆積」及び「反動分離」を特許請求の範囲に記載して要旨とする本件発明は、特許法四四条(旧特許法施行規則一二条、旧特許法九条一項)に違反するものであり、出願日の遡及は認められないから、分割出願である本件特許の出願日はその差出日である昭和四九年五月二〇日であり、公知例である原出願の公告公報により無効は免れず、このような無効原因を有する特許権により権利侵害を主張することは権利の濫用に他ならない。

第四  原告の主張

一  粗雑面について

1  本件発明の選別原理は次のとおりである。

(一) 本件発明の選別は、粗雑面よりなる無孔の撰別盤上で異種混合穀物粒に斜上下の往復動を与えるようにしたものである。この斜上下の往復動は、振動の一種である。ところで一般に、種々の異なる性状を有する粒状物を容器に入れてこれに振動を与えると、粒状物は、集合体としてその上面部分が平らにならされると共に、個々の性状の相違によって、その集合体の内部で位置の変更がなされ、次のように分離される傾向にある。

イ 大きさに関しては、小さいものほど沈下する。

ロ 比重に関しては、大きいものほど沈下する。

ハ 表面の摩擦係数に関しては、小さいものほど沈下する。

そして、穀物粒のような粒状物の選別にあっては、穀物粒が種々の点で性状を異にすることが多いので、右の分離の傾向が複合的に作用する。例えば、籾米粒と玄米粒との混合粒については、大きさに関して玄米粒の方が籾米粒より小さく、比重に関しても玄米粒が籾粒より大きく、また表面の摩擦係数に関しても玄米粒の方が籾米粒より小さいので、玄米粒の方が籾米粒よりも沈下する性質を有している。

(二) 本件発明の選別は、前述のとおり振動を利用する選別であるから、粗雑面よりなる無孔の撰別盤上に供給された異種混合穀物粒、例えば籾米粒と玄米粒との混合粒は、斜上下の往復動という振動の第一次現象として、玄米粒が籾米粒よりも沈下し、撰別盤上において下層に位置することとなる。

(三) しかし、このように上下方向に分離させるだけでは選別機能としては不十分であり、実用化のためには、これらの穀物粒を種類ごとに外部に取り出しうることが必要である。

本件発明は、この課題を解決するために、穀物粒を選別盤の供給側から排出側にかけて流動させながら、この撰別盤に対して穀物粒の流動する流下方向に対して左右側の方向である左右方向に斜上下の往復動を与えるように、即ち本件公報の実施例からも明らかなように、撰別盤1を、供給側Hを高く、排出側Lを低く配置するとともに、この撰別盤1を斜め支扞12、12の上端に支持し、斜め支扞12、12の下端を支点として、左右方向に斜上下の往復動を行なうように構成した。この撰別盤の斜上下往復動によって、下層に沈下した穀物粒、例えば玄米粒は、まず撰別盤が斜上方へ移動するときに、盤面に押し付けられるような状態で支持されて撰別盤とともに揺上側へ移動する。そして、撰別盤が斜上方への運動から斜下方への運動へ移る際、慣性によってその盤面から離れる傾向を示す。このため、引き続き撰別盤が斜下方へ移動するときには、盤面上の玄米粒は盤面の影響を受けない。従って、右玄米粒が盤面上に落下し再び盤面に支持される際には、撰別盤上のもとの位置よりも揺上側へ寄った場所に移動している。そして、撰別盤のこのような往復動が反覆されることにより、盤面上に沈下した玄米粒は揺上げ側へ徐々に移動する。

(四) 撰別盤の斜上下の往復動により、右のとおり第一次現象として、玄米粒が下層に沈下するとともに籾粒が上層に浮上し、次いで第二次現象として下層に沈下した玄米粒が揺上側へ移動する。

しかし、このままでは玄米粒が揺上側へ移動するとともに、籾粒も揺上方向に移動してしまい、これを実用的に分離して外部に取り出すことはできない。

これを解決するのが、揺上側に側壁を設けるという構成である。即ち、この揺上側の側壁によって、玄米粒の揺上方向への移動は進行を止められ、玄米粒はそこに隆積する。もっとも、振動を与えられた穀物粒は全体としてその上面部分がならされるという性状のため、玄米粒が揺上側の側壁方向に極度に盛り上がってしまうことはなく、揺上側の側壁付近において玄米の層が一番厚くなり、盤面の中程にかけてこれが段々薄くなるという状況を呈するが、この現象を隆積と称している。

(五) これに対して上層の籾米粒は、盤面の動きをその下層側の玄米粒を介して間接的に受けるにすぎず、むしろ慣性によってその位置に止まろうとする傾向にある。このため、沈下した玄米粒が揺り上げられる際には、籾粒は玄米粒との間に反動によるずれを生ずるとともに、前記玄米粒の揺上側への隆積のため反対側に偏流して集合する。そして、それぞれの穀物粒が盤面上で左右方向に分離された状態を維持しながら、撰別盤の流下方向の傾斜により低い排出側に流動して排出される。

以上が、本件発明の選別原理である。

2  「粗雑面」の意義

(一) 本発明の粗雑面については、明細書に特に限定は付されていないが、前述のような本件発明の選別原理によれば、撰別盤の上向き行程において下層に沈下した穀物粒を支持し撰別盤の動きに追随させることをその本来の機能とするものであり、したがって、これを形成する凹凸の形状も粗雑面に右機能を果たすための摩擦抵抗等を与え、かつ撰別盤が下向き行程に復する際の前記穀物粒の離脱を妨げないような形状であれば足り、それ以上格別の構成を要するものでないと解するべきである。

従って、粗雑面を形成する凹凸の大きさが過度に大きいと、撰別盤が斜下方へ移動する時に穀物粒の離脱を妨げるので右粗雑面の範疇に入らないが、このような制約以外には、凹凸の大きさや形状に格別の制約はない。

(二) 粗雑面の凹凸の方向性の有無は問わない。

まず、粗雑面に設けられている多数の凹凸のそれぞれを形成している面のうち、ある面が各凹凸ともに一定の方向を向いているという単に凹凸の形状を示す意味での方向性(以下、この意味における方向性を「形状としての方向性」という)について、本件発明の粗雑面は、このような方向性を有する凹凸を排除するものではない。このことは、本件発明の原出願の明細書等において粗雑面として例示された第6図bの凹凸形状から明らかである。

しかし「方向性」という言葉は、選別板を水平に揺動させた場合に、板面上に配置された凹凸が穀粒を一定方向へ押送する作用を有しているという意味においても用いられる(以下、この意味における方向性を「作用としての方向性」という)。そもそも「方向性」という言葉は、形状としての方向性を意味する用語として用いられたものではなく、被告特許の揺寄突起について、その作用との関係で用いられたものである。即ち、一定の方向に角度を有して延びる頂端線をもった突起を多数配列した選別板に、水平方向の揺動運動を付与しながら穀粒を供給すると、穀粒は、突起の頂端線によって、その突起の向きに応じた一定の方向に押送されるが、このような作用を有する突起を「方向性」があると言っていた。

そして、被告特許公報の記載から明らかなように、この頂端線は、穀粒の流動方向線に対して平行〇度角から六〇度角に至る適当な角度を有するものであって、必ずしもすべての頂端線が同一角度を有しているわけではないが、板面が水平揺動するにもかかわらず、穀粒は、それら頂端線をもつ突起の向きに応じて、一定の方向に押送される。このように、作用としての方向性は、形状としての方向性とは異なる概念である。

(三) 本件発明の粗雑面の作用は、盤面が斜上方へ移動する際に盤面上の穀粒に対して摩擦抵抗作用を与えるものであって、水平揺動によって穀粒に押送作用を与えるものではないから、粗雑面の凹凸が作用としての方向性を有するか否かは、本件発明の粗雑面の対象外である。本件発明の粗雑面の凹凸は、盤面が斜上方に移動する際の穀粒に対する摩擦抵抗作用となるものであるから、作用としての方向性によって穀粒を一定方向へ押送する作用とは異なるけれども、盤面が斜上方への移動時に穀粒に右摩擦抵抗作用を与え得るような凹凸形状であれば、該凹凸が作用としての方向性を有していようがいまいが構わない。

(四)(1) 「流動摩擦抵抗」とは、(一)の粗雑面に関する記載のうちの「玄米粒や砕麦粒は盤1の…粗雑面の抵抗によって斜上高部に押進される」との部分、及び原告の右(二)におけゐ「米粒を斜上に揺り上げるときの滑り止めに必要な流動摩擦抵抗」との主張からすれば、盤面上を流動する穀粒に対して、撰別盤を押し上げる際の抵抗もしくは滑り止めとなる作用の意味で用いられたものであるが、そもそも「摩擦」の意味については、科学用語辞典によれば、「二物体を接触したまま相対運動させようとするとき、あるいは二物体が接触して相対運動しているとき、この相対運動を妨げようとする抵抗」とされている。

(2) そこで、本件発明の粗雑面における摩擦抵抗を詳しく説明すると、まず撰別盤が斜上方へ移動しようとする運動に対して、この盤面に接触して位置する穀物粒は、そのときの位置を維持しようとするような運動が撰別盤に対して生じるため、撰別盤が例え揺動方向に対して水平に保持されていても、斜上方へ移動する撰別盤の盤面が滑面であるとすれば、盤面上を相対的に揺り下げ方向に滑ってしまう。したがって、撰別盤の斜上方への移動時に盤面上の穀物粒を撰別盤に追随させて上方へ移動させるには、穀物粒の右のような運動を妨げようとする抵抗が必要となる。これが「摩擦抵抗」であるから、本件発明の粗雑面における摩擦抵抗とは、「斜上下に往復動する撰別盤が、斜上方への移動時に、下層に沈下した穀物粒をその動きに抗して盤面上に支持しようとする力」である。

(3) この流動摩擦抵抗作用とは、単に穀粒の下面のみを盤面上の凹凸の先端部分のみで支持して摩擦を与える場合のみならず、穀粒を粗雑面の凹凸に引っ掛けて滑り止めとする場合も含む。滑り止めという作用を効率的に及ぼすためには、粗雑面の凹凸に引っ掛けてほうり上げるようにしたほうがはるかに強い滑り止めの作用を及ぼすからである。また、被告が粗雑面であると主張するものにおいても、米粒の長径が左右方向ではなく、前後方向になるように位置した場合や、他の米粒との関係で米粒の長径先端部分が凹凸の凹部に入って位置した場合などは、凹凸に引っ掛けて滑り止めとするような摩擦が働くし、また本件発明の明細書中にも、籾玄米混合粒の選別だけでなく、玄米と砕粒との選別も可能であることが記載されているが、砕粒は玄米より小さいから、相対的に凹凸に引っ掛かりやすくなるはずであり、これらからして、本件発明の粗雑面が凹凸に引っ掛けて滑り止めとするような構成を含むものであることは明らかである。

(4) 右のような「摩擦抵抗」の意味、及びこれを穀物粒に対して及ぼす粗雑面の作用からすれば、粗雑面を形成する凹凸の形状も、粗雑面に右のような「摩擦抵抗」を付与し、かつ選別板が下向行程に復する際に穀物粒の離脱を妨げないような形状であれば足り、それ以上格別の構成を要するものではない。

3  甲第七号証に示された実験結果は、原告の右主張を立証するものである。

この試験で用いた被告製品の選別板(その凹凸は、形状としての方向性がある)を、揺動角〇度、即ち水平に揺動する試験において玄米と籾との分離作用が認められるということは、この選別板の凹凸は作用としての方向性を有する。しかし本来の揺上側とは逆方向を揺上側として揺動角を五〇度とした試験においても、玄米及び籾が試験の水平揺動時とは全く逆の側に分離されて選別される。作用としての方向性は選別板の揺動角との関係で成立するものであり、たとえ作用としての方向性がある選別板であっても、揺動角を与えて揺動すれば、水平揺動時の選別作用とは全く異なる選別作用を呈する。

4  本件発明の出願経過について

原告は、本件出願手続きにおいて、「粗雑面」に関連し、「公知例のように撰別盤を揺動させて異種粒を分離する場合、その揺動方向を単なる水平揺動とせず、斜め上下の方向に揺動させて穀物をあおるようにすると、盤面の突起群を、単なる突起群としても撰別できるので、撰別盤の製作はすこぶる容易になるばかりでなく、実際に製作してみると、撰別性能までも向上できる。」と説明しており、斜め上下の方向に揺動させるに当たり方向性を有する突起群を排除してはいない。さらに又「本発明は、撰別盤を揺動させるとき、斜め上下の方向Wにあおるように揺動させるので、公知例のような方向性を有する突起でなくても撰別することができる」とも説明し、斜め上下の方向に揺動させることにより方向性を有する突起でなくとも選別できることを主張しており、原告は粗雑面の突起について、方向性を有するものも、これを有しないものも、共に撰別盤を斜め上下の方向にあおるように揺動させれば、所定の選別効果をあげるので、いずれも「粗雑面」に該当することを明確に主張している。

5  粗雑面の解釈についての被告の主張に対する反論

(一) 被告は、分割出願である本件発明の解釈について、原出願の発明の内容の解釈をもとに論じる。被告主張の第三、五1(二)(2)の原出願及び本件出願の出願経過についての主張は認める。しかし、本件発明と原出願とは別個独立の発明である。分割出願である本件発明の特許請求の範囲の解釈にあたり、原出願の出願当初の明細書で開示された技術内容の範囲に拘束されることはいうまでもないが、原出願のその後の補正等の出願経過が分割出願を拘束するわけではなく、ただ、これを分割出願の解釈上斟酌しうる場合があるにとどまるものである。

(二) 被告は、本件発明の原出願の審決取消訴訟の過程において、原告は「粗雑面の凹凸は方向性を有しないものである」と主張したから、本件において凹凸に方向性のある場合も粗雑面の範疇に含まれると主張することは、禁反言則に反して許されないと主張し、右の審決取消訴訟の判決の事実摘示を引用するが、右の事実摘示は正確ではない。原告は、同事件の最終準備書面(甲第六号証)において、「本願発明の撰別盤の表面には、縦振動により米粒を斜上に揺り上げるときの滑り止めに必要な流動摩擦抵抗を生ずるようにザラザラした粗雑面が形成されており、その凹凸の程度は、撰別しようとする穀粒より大きなものではなく、かつ、方向性を必要としないものであることは論を俟たない常識である。」と主張していた。

したがって右判決が、「方向性を有しないものである」旨事実摘示しているのは不正確である。しかし、同判決も理由中においては、「本願発明においては、粗雑面を形成する凹凸の方向性については、特に意図するものがないと認められる」と認定している。

いずれにしろ、原告は、本件において原出願における主張に反するような主張をしているわけではない。

(三) また被告製品の選別板の突起において、揺上時に穀粒に力を作用させるのは、突起のA面及びC面であるが、これらの面は、斜上方への揺動方向に対して垂直に構成されているわけではないから、これらの面も摩擦力を利用して米粒を支持し、揺動作用をしている。

即ち、被告製品はアルミニウム合金の薄板であって、タンジェント二二度の摩擦係数で最大静止摩擦力が作用するところ、揺動時には滑り止めとなる構成が必要になるため、突起54を多数設けて、揺動運動と相まって突起のA面及びC面やその他の面のそれぞれが単独にもしくは他の面と組み合わされて穀粒に摩擦力を及ぼし、穀粒を効率よく揺り上げるような構成としているものである。

このように突起54のA面は、摩擦抵抗作用によって盤面上の穀粒を揺上方向に往動させているものである。

二  「隆積」について

1  本件発明において、撰別盤の斜上下の往復動により揺上側へ揺り寄せられた盤面上下層に位置する玄米粒は、揺上側の側壁によって進行を止められ隆積する。しかし、前述のように、粒状物に振動を与えた場合の上面部分が平らにならされる現象のため、そこで極度に盛り上がるようなことはなく、側壁側においてその層が一番厚くなり、盤面の反対側にかけて段々薄くなる形で隆積する。

2  これに対して上層の籾米粒は、右の上面部分が平らにならされる現象のため、玄米粒が揺上側に隆積するに従い、それに応じて反対側に移動する。この現象を本件発明においては「その反動で反対側に偏流する」と称するのである。

3  被告は「隆積」の意味について、「揺上側の側壁付近において、穀粒層厚が一番厚くなり、盤面の中程から揺下側にかけて層厚がだんだんと薄くなる」という現象を称すると主張する。即ち、隆積とは、玄米粒も籾粒も合わせた穀粒層全体の層厚についての現象であるという。しかし本件発明の特許請求の範囲における「撰別盤上の混合粒のうち、比重の大なる穀物粒を揺上側H1方向に隆積させ」との記載、及び発明の詳細な説明における「そして下層に沈下した玄米粒は、第二次現象として、側壁3方向に揺り寄せられて隆積し」との記載からすれば、隆積するのは玄米粒及び籾粒の両方を合わせた穀粒層全体ではなく、比重の大なる玄米粒について生ずる現象であることが明らかである。

4  なお以上のような過程を経て玄米粒と籾米粒とが盤面上で左右方向に分離するのであるが、籾粒の反対側への偏流を促すために、撰別板に左右方向の傾斜(縦傾斜)を設けることがある。撰別板の左右方向傾斜は、本件発明の要件ではなく、逆に、この傾斜があっても、本件発明の選別とは別の選別になる訳ではない。

三  左右方向水平は要件でないことについて

1  被告は、本件発明は水平の撰別盤を斜上下に揺動させる構成であり、撰別盤が左右方向に傾斜している場合は含まれない旨主張する。

しかし、撰別盤に縦傾斜を付与する理由は、選別時に撰別盤全体に穀粒が適度に広がるようにして撰別盤の選別能力及び選別精度を高めることにある。即ち、揺動角を一定としたままで、縦方向への傾斜角度を適正な選別が行われているときより一度大きくすると、穀粒全体が揺下側に片寄る傾向があり、玄米が撰別盤の揺下側端部からも排出されてしまうようになり、揺下側端部から籾のみを取り出すことが不可能となって選別精度が低下する。逆に、適正な縦傾斜角より一度小さくすると、穀粒全体が揺上側に片寄る傾向があり、揺上側に玄米が隆積し、揺下側に籾が偏流するものの、揺下側端部には籾さえ至らず、盤面全体を有効に利用することができない。このため、適正な縦傾斜角を付与して有効な選別を行う必要がある。しかし、この縦傾斜角は、揺動角の大きさ、撰別盤面の凹凸の状態、撰別盤の大きさ、及び被選別物の性状等の種々の要因によって定まるものであって一定の角度ではない。

2  右のように、撰別盤の縦傾斜は、比重の大きな穀物粒(玄米粒)を揺上側方向に隆積させ、比重の小さな穀物(籾粒)をその反動で反対側に偏流させるという本件発明の作用を実際の選別作業において有効に発揮させるために適度に設けられるものであって、本件発明の必須の要件ではない。したがって、縦傾斜を適正な状態となるまで付与した場合にあっては、比重の大きな穀物粒(玄米粒)の揺上側側壁方向への隆積という現象は生じるのであるが、玄米粒が撰別盤の揺下側端部まで至るような過度の縦傾斜を付与した場合には、撰別盤の揺上げによって揺り上られた玄米粒が揺上側側壁方向に隆積する作用よりも、過度の縦傾斜によって穀粒全体が揺下側へ流下しようとする作用の方が強くなるため、玄米粒の揺上側側壁方向への隆積はまともには生じないことになる。そして、玄米粒が揺下側の端部にまで至るほど急な縦傾斜を付与すれば、揺下側から籾のみを取り出すことはできないのであるから、実用上そのような縦傾斜を付与することは有り得ない。したがって、実用に耐えうる適正な縦傾斜である限りは、縦傾斜が付与されていても玄米粒の揺上側側壁方向への隆積は生じるのである。

3  本件発明の構成要件として必須のものは、流動抵抗を生じさせる粗雑面、撰別盤の流下方向への傾斜(横傾斜)、撰別盤の斜め上下の往復動等のように、特許請求の範囲に記載されたものに限られるのであり、縦傾斜については、右に述べたとおりこれに含まれるものではない。実際に、本件発明のどのような実施品においても、撰別盤の適正な縦傾斜角をその都度適正に調整するための機構が具備されているのであって、このことからも、縦傾斜は本件発明の構成要件ではないことが容易に理解できる。

四  被告の抗弁について

1  抗弁1について

被告特許は、その公報図面第一図に流樋の水平の揺動方向WもしくはW’として示されているように、水平運動する流樋上の揺寄突起の頂端線で直接下層の玄米粒を平面的に斜横又は側横方向に強制的に移動させるものであるから、揺動運動は水平方向に行うのが原則であり、その技術思想には揺動角を有する斜上下方向の運動という思想は全く含まれていないし、意識されてもいない。

一般に表面が凹凸形状の盤面を左右方向に水平に往復揺動すると、盤面が右方向に移動する場合も左方向に移動する場合も、盤面上の穀粒に対して、摩擦、即ちその位置を維持しようとするなどの穀粒の運動に抗してこれを盤面に追随させようとする力は生じる。しかし、表面の凹凸形状の相違により一方への移動の場合の穀粒に対する摩擦が他方への移動の場合の摩擦よりはるかに強い場合には、盤面の下層に位置する穀粒は、盤面に関してその一方へのみ押送される。これが水平押送作用であり、この作用は、左右両方向への選別板の水平移動時の摩擦の差を利用した特殊な作用なのであり、そのため「方向性」のような特別の構成が必要となるのに対し、本件発明の粗雑面においては、このような構成は必要がない。

ここに方向性とは、前述の作用としての方向性をいうものであり、選別板を水平に揺動させた場合に、穀粒が突起の頂端線の向きに応じて一定の方向に押送する凹凸の性質、即ち水平押送作用性をいう。

これに対して本件発明の粗雑面の作用は、盤面が斜上方へ移動する際に盤面上の穀粒に対して摩擦抵抗作用を与えるものであって、水平揺動によって穀粒に押送作用を与えるものではないから、粗雑面の凹凸が作用としての方向性を有するか否かは、本件発明の粗雑面の対象とするところではない。

別の観点から見れば、本件発明においては、穀粒が揺り寄せられる方向は、「斜上下の往復動」という揺動の方向で決定されるのに対して、被告特許においては、穀粒が揺り寄せられる方向は、「揺寄突起」の頂端線の方向により決定されるのである。被告は、揺寄突起が斜上下の往復動と結合しても、その作用はあくまでも押送作用であって、その押送作用が消滅し、流動摩擦作用を具備するわけではないと主張するが、甲第七号証の実験結果によれば、水平押送作用がある選別板であっても、揺動角を与えて揺動すれば、水平揺動時の選別作用とは異なる作用を呈するものであり、選別板の斜上下揺動による本件発明の選別においては、凹凸の形状を利用した水平押送作用は関係のない概念である。

このように被告特許は本件発明と異なり、また被告製品は選別盤を斜上下に揺動運動させることを特徴とする選別機であって、かつ水平揺動させても突起54のA面によって穀粒を押送するのであって頂端線で押送するわけではないから、被告製品は被告特許発明の実施品ではない。

2  抗弁2について

被告の権利濫用の主張については、その当否を判断するためには、前提として本件特許権が無効であるか否かを判断しなければならず、これは本来特許権について、その無効事由の存否の判断を特許庁の専権事項とした法の建前に反するものである。それゆえ、このような主張は許されない。

また、本件特許権には一見して無効と考えられるような事由もないから、この点からも権利濫用の主張は根拠がなく排斥されるべきである。

第五  証拠関係

証拠関係は本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因一(本件特許権)は当事者間に争いがない。

二1  請求原因二1(本件発明の構成要件の分説)は当事者間に争いがない。

2  本件公報によれば、本件発明の作用は、本件公報の実施例図面に則して述べると、次のとおりであると認められる。

(一)  籾米粒と玄米粒の混合粒を供給タンク16より各段の撰別盤1、1…の供給側Hに均等に供給し、偏心輪14を回転させて撰別盤1、1を揺動させると、支台2を取付けている支杆12、12が斜めに軸着6、7されている関係上、矢印Wのごとく左右側に斜め上下動をする(本件公報三欄一九行ないし二四行)。

(二)  斜め上下のあおり運動を受けた混合粒は第一次現象として比重の大なる玄米粒は下層に沈下し、比重の小なる籾粒は玄米粒の上層に浮上する。そして、下層に沈下した玄米粒は、第二次現象として、側壁3方向に揺寄せられて隆積し、上層に浮上した籾粒は、その反動で反対側に偏流し、この状態を保ちながら、徐々に、排出側L方向に流動し、玄米は、第1図のE1線のごとく流動して排出される。籾粒は逆にE3線をもつて表示したごとく揺下側に向つて集合して落粒防止用側壁4にそつて偏流する。分離されない混合中間粒はE2のように排出される(本件公報三欄二七行ないし四欄五行)。

3  本件公報によれば、本発明の効果は、次のとおりであると認められる。

(一)  撰別盤を無孔とすることによつて、穀粒間の密度を大にし、その斜め上下の揺動によつて穀粒間の摩擦を利用しながら穀粒の分離をうながし撰別を行い(本件公報四欄六行ないし一〇行)、

(二)  玄米粒に対する砕粒等の混合粒のように空気流に対する抵抗に差が小さく穀粒間の摩擦に差のある特殊な混合穀粒でも高精度の撰別ができ、かつ、撰別作用に目詰まりや散流が生じず、安定した撰別ができ(本件公報四欄一〇行ないし一四行)、

(三)  しかも、単一無孔撰別盤では得られない選別能力が得られると共に、各撰別盤の間隔を小さくすることができるので、全体の高さが低く振動に対する安定性があり(本件公報四欄一四行ないし一七行)、

(四)  通風のための装置を必要としないので、構造が簡単となって重量も小さくてすむ撰別機を提供できる(本件公報四欄一七行ないし一九行)。

三  請求原因三(被告製品の構造)は当事者間に争いがない。

四1  当事者間に争いのない被告製品の別紙物件目録(一)ないし(四)の記載並びに被告製品の一つであるMS三一〇型籾摺選別機の選別板であることについて当事者間に争いがない検甲第一号証によれば、被告製品の構成は以下のとおり分説できると認められる。

A  選別板21は、アルミニウム合金の無孔の薄板からなり、後側を供給側H、前側を排出側L、右側を右側U、左側を左側Dとし、上方からみると前後側がやや長い長四角形状であり、供給側Hは排出側Lより高く、右側Uは左側Lより高く、二方向に傾斜している。また選別板21の盤面には、各物件目録記載の突起54が多数形成されている。

B  選別板21は載置枠29上に重架され、載置枠29には左斜杆30の上端が軸32により、右斜杆31の上端が軸33によりそれぞれ軸止されている。左斜杆30の下端は台枠34の上面に設けた軸受体35に軸36で軸着されている。右斜杆31の下端は台枠34の上方位置に設けた軸37に軸着されている。左斜杆30と右斜杆31とは平行関係に位置し、軸32と軸36との距離は軸33と軸37との距離と等しくされている。

左斜杆30は、軸36を基部とし、垂直線に対し左に三〇度傾斜して設けられ、クランク軸52の回転によりその角度から左右両方向にそれぞれ七度の範囲で往復揺動するので、載置枠29上に重架された選別板21に、混合粒の流動する方向に対して左右側の方向に斜上下の往復動が与えられる。

C  選別板21の右側Uに直角起立状の側壁23が設けられている。

D  Aに述べた無孔の選別板21を複数(各物件目録記載のとおり、二枚、三枚、四枚又は五枚)多段状に重架させてある。

E  選別機である。

2  前記各物件目録、被告製品の一つであるMS三一〇型籾摺選別機及び実験機を用いて、玄米と籾との選別を行った状況を撮影したビデオテープであることが当事者間に争いがない検甲第二号証並びに弁論の全趣旨によれば、被告製品の作用は以下のとおりであると認められる。

A  クランク軸52を回転させると、左斜杆30及び右斜杆31が選別板21を載置した載置枠29に斜めに軸着されている関係上、選別板21は左右両方向にそれぞれ七度の範囲で斜め上下に往復揺動する。

B  籾米と玄米との混合粒を貯留タンク13から分配供給樋19を経由して各段の選別板21の供給側Hにそれぞれ均等に供給する。

C  供給された混合粒は選別板21の供給側Hより排出側Lの左側D方向に向かって徐々に流動する力を受けながら、左右方向に斜め上下の往復動を受けることによって、第一次現象として、玄米粒は下層に沈下し、籾粒は玄米の上層に浮上する。そして、第二次現象として、下層に沈下した玄米粒は、側壁23方向に揺寄せられて右側U方向に隆積し、上層に浮上した籾粒はその反動で左側D方向に偏流して、徐々に排出側L方向に流動する。

D  玄米粒は別紙物件目録(一)ないし(四)の各第三図の玄米取出口26から排出され、籾粒は同図の側壁23に沿って流動して籾取出口27から排出され、分類されない混合粒は、同図の混合米取出口28から排出される。

五  本件発明の構成要件aと被告製品の構成Aを対比する。

1  まず本件発明の構成要件aの「粗雑面」の意義について検討する。

「粗雑面」という語が、一般用語あるいは学術・技術用語として国語辞典や専門用語辞典に登載されていることを認めるに足りる証拠はない。

「粗雑面」の語は、「粗雑」の語と「面」の語が結合したもので、「粗雑」の語が「面」の形態、態様を形容しているものと解されるところ、「粗雑」の語は一般用語として、「精密でないこと。あらくて、ぞんざいなこと。」(岩波書店発行・広辞苑第四版)、「おおざっぱで、いいかげんなこと。そまつであらっぽいさま。」(小学館発行・国語大辞典)、「細かい点までは行き届かず、あらっぽくて、いいかげんなこと。」(岩波書店発行・岩波国語辞典第四版)等、物事や人の態度の否定的な評価を表すものであることは当裁判所に顕著であるが、このような意味の「粗雑」な「面」とはどのような形態、態様の面であるか理解することができない。

もっとも、「粗」の文字は、「あらい。こまかでない。」(角川書店発行・漢和中辞典)、「あらく、きめこまかでないこと。」(小学館発行・国語大辞典)の字義を有し、「雑」の文字は、「まじる。みだれる。」の字義とともに「あらい」の字義を有する(角川書店発行・漢和中辞典)ところ、「あらい」の語は「ざらざらしてなめらかでない。」(岩波書店発行・広辞苑第四版、小学館発行・国語大辞典)との意味を有することは当裁判所に顕著であるから、「粗雑面」の語は、「粗」、「雑」と同義の二字で「面」を修飾した「ざらざらしてなめらかでない面」の意味とも理解できないわけではない。

本件発明の明細書中の発明の詳細な説明には「粗雑面」の意味を直接に定義あるいは説明する記載はなく、実施例についての説明として、「1、1は表面を無孔の粗雑面に形成した撰別盤で」(本件公報二欄二九行ないし三〇行)と記載されているだけである。また本件特許願に添付された図面でも、撰別盤の断面図である第3図において、撰別盤の表面の断面が、細かい一様な波線で表わされ、撰別機の正面図である第1図において、撰別盤の表面の一部が縦線、横線からなる細かい網目状に表わされているだけであり、特に粗雑面の具体的態様を明らかにするための図面はない。

したがって、本件発明の明細書及び図面の記載からは、「粗雑面」とは、断面図で細い一様な波線で表わされる面、正面図で細かい網目状に表わされる面を含む形態、態様の面であるという以上に明らかにすることはできず、前記のような「粗」、「雑」の文字の字義によれば、「ざらざらしてなめらかでない面」の意味と理解する余地がないとはいえないが、なお、その技術的意義について検討する必要がある。

2  前記二2認定の本件発明の作用についての本件公報の記載に、成立に争いのない乙第五号証(原出願の出願当初の明細書及び図面)、乙第六号証(原出願の出願公告公報)、及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件発明が採用する選別の原理は、選別対象である異種混合穀物粒を、撰別盤の表面を高い供給側から低い排出側へと流動させながら、撰別盤をその流動する方向に対し左右側へ斜め上下に往復動させることによって、異種の穀物粒を上層と下層に分離させ、さらにこれを撰別盤の左右側端へ分離させるというものであるが、そのうち、下層に沈下した穀物粒を一側端へ移動させるのは、撰別盤の斜め上下の往復動の上向き行程において、盤面の粗雑面で下層に沈下した穀物粒を支持して撰別盤とともに揺上げ方向に移動させ、下向き行程に復する際には慣性によって穀物粒は揺上げ方向へ進ませ、下向き行程に復した撰別盤上の従前の位置より揺上側に移動させることを繰り返すことによっているものであり、撰別盤の粗雑面は、撰別盤の上向き行程において、下層に沈下した穀物粒を支持し撰別盤の動きに追随させる機能を果たすものと認められる。

したがって、撰別盤の粗雑面とは、右のような機能を果たし、かつ撰別盤が下向き行程に復する際に、穀物粒が慣性によって揺上げ方向に進むために撰別盤を離脱することを妨げない形態であることを要するものであることが、本件公報に記載された本件発明の採用する選別原理に示唆されている。

3  事実摘示第三、五1(二)(2)の原出願及び本件出願の出願経過は、当事者間に争いがない。

右のとおり、本件特許出願は、原出願である特願昭三四-三四六八号から分割して出願されたものである。

成立に争いがない甲第六号証、乙第一号証、乙第五号証、乙第六号証、乙第二一号証、乙第三〇号証ないし乙第三三号証及び弁論の全趣旨並びに当事者間に争いがない事実によれば、原出願以後の主要な経過は、以下のとおりである。

(一)  昭和三四年二月三日 訴外佐竹利彦による原出願の特許出願(特願昭三四-三四六八号)がされた。

右原出願の出願当初の明細書及び図面の記載は本判決添付の原出願当初明細書写し及び原出願当初図面写しのとおりである。

原出願の出願当初の明細書には、「例図について1は多数の壷穴を押出した鉄板製の粗雑面撰別盤で」(一頁一五行ないし一六行)、「第6図は撰別盤の応用例でaは多孔板を無孔板と接着したもの、bは圧搾して凹凸面を形成したもの、cは金網を無孔板と接着したものである」(二頁七行ないし一〇行)との記載があり、出願当初の図面中第6図のaには、開口部、底面ともに円形で開口部の径が底面よりやや大きい孔が縦横に整列した状態が、bには平面視略半円形で、断面は前記略半円形の直径部分の壁面が垂直に切り込まれ、半円弧部分から右垂直の壁面の下端へ向って斜めの壁面が形成された孔が、略半円形の直径部分を同一方向に向けて、縦横に整列した形態が、cには、正方形の目を形成するように編まれた金網が無孔板の上に接している状態が、それぞれ表わされていた。

なお、原出願の出願以前の「粗雑面」の語の使用例として証拠により認められるのは、昭和三一年五月一九日に出願公告された実公昭三一-七五五六号公報に、底盤を「凹凸粗雑面」とした揺動撰穀機が記載され、その例図に底盤の表面が細かい波線で表わされているもののみである。

(二)  昭和三五年二月一〇日 特許を受ける権利が、訴外佐竹利彦から原告に譲渡された。

(三)  昭和三五年二月二三日 特公昭三三-七六五九号公報(被告特許)に記載された発明から容易に発明できたことを理由とする拒絶理由通知がされた。

(四)  昭和三五年四月五日 意見書提出とともに、訂正書により明細書及び図面の訂正がされた。

(五)  昭和三五年一〇月三日 特許出願公告(特公昭三五-一四四六八号)がされた。

右公告の記載は本判決添付の原出願の出願公告公報写しのとおりである。

(六)  昭和三五年一一月三〇日 被告を異議申立人とする、特公昭三三-七六五九号及び特願昭和三一-一九六〇一号の明細書及び図面から容易に発明できたことを理由とする異議申立てがされた。

(七)  昭和三六年八月七日 特公昭三三-七六五九号の明細書及び図面から容易に発明できたことを理由とする特許異議は理由がある旨の決定と拒絶査定がされた。

(八)  昭和三六年九月一三日、抗告審判請求(特許庁昭和三六年抗告審判第二六五七号)がされ、昭和三八年一一月二七日、右抗告審判請求は成り立たない旨の審決がされた。

右審決において、原出願の発明の要旨は、「a撰粒盤を粗雑面となし、b撰別盤を横に傾け、c撰粒盤に縦の揺動角を有する縦振動を与え、d該盤上の横行程に雑粒混合体を流動せしめながら徐々に横行程の両側にそれぞれ異種粒を偏流させ、適宜の場所に誘導撰出する」選別機にあると認められ、構成要件aの「粗雑面については、被告特許に、流樋に揺寄突起が設けられているから粗雑面の一種である」とし、粗雑面は公知であったからその形状は単なる設計変更に帰着し、構成要件cの揺動角については、被告特許においても程度の差はあるとしても上下に振動することからこの点で両者は同一発明であるとし、構成要件bについても公知の事例があったことから、被告特許に公知の構成要件bの構成を加えることは当業者が容易になし得たもので、各構成要件が格別に奏する作用効果の総合以上の作用効果はないから、当業者において容易に推考できたとされた。

(九)  原告は、右審決の取消訴訟を提起し、右訴訟は東京高等裁判所昭和三九年行ケ第二号をもって審理され、右訴訟において、原告は、原出願の発明の構成要件aの「粗雑面」と構成要件cの「揺動角」が、被告特許には開示されていないと主張し、そのうち粗雑面の点について、昭和四〇年七月二九日付け準備書面(甲第六号証)で次の(1)ないし(3)のとおり主張した。

(1) 原出願の発明の撰粒盤の表面に形成されている粗雑面は、明細書並びに図面の記載から、当然流動摩擦抵抗を生じるような、いわゆるザラ付き面であるのに対して、被告特許公報に開示されているのは、流動摩擦抵抗とはいえない穀粒を押送する揺寄突起であり、しかも横とか左右とか限定された方向にのみ揺り寄せ得る特殊な突起であって、原出願の発明でいう粗雑面には該当しない、

(2) 原出願の発明の撰別作用を詳述すると、原則的に盤の揺動角揺動盤の摩擦抵抗によって全米粒が斜上方向に押進され玄米より粒大と流動摩擦抵抗の大きい籾は隆積層H1の高い方向には偏流できず、転動しやすい滑面の玄米が優先的にH1の斜上方向に押進されて隆積する。そして揺られたり浮遊して盤上に落着する間に籾玄米の比重差と流動摩擦抵抗差によって籾が上層に、玄米が下層に置換され、H1とL1との中間に浮流している籾はその隆積米の山腹に押され、その勾配に沿ってL1の方向に偏流し、籾と玄米に選別される、

(3) 原出願の発明の撰粒盤の表面には、米粒を斜上に揺り上げるために必要な流動摩擦抵抗を生ずるように粗雑面が形成されている。したがって、粗雑面の形状は、原出願の出願当初の図面の第6図に示したように各種のものが適用されるが、要するにザラザラしたもので、凹凸の程度は選別しようとする穀粒より決して大きなものでなく、その上、方向性を必要としないものであることは論をまたない常識である。これに対して、被告特許のものは、下層の玄米層を強制的に横方向に押送するものであり、玄米の押送力は盤の一側に設けた壁に衝突して高積みとなり崩れ落ちて上層の籾米を反対方向に押し流す程度であるから、少なくとも穀粒と同等もしくはそれ以上の高さがあって押送できる構造であることを必要とし、その上揺寄突起には横側、横斜側、左側、右側等特殊な方向性が必須の要件となるものであり、原出願の発明でいう粗雑面とは別種のものである。

(一〇)  昭和四八年二月一六日 右(九)の事件について、審決を取り消す旨の判決(乙第一号証)がされ、同判決はその後確定した。

右判決では、粗雑面については、「本願発明の撰粒盤における粗雑面は、撰粒盤の縦の振動角βを有する縦振動の上向き行程において、玄米粒又は破麦粒は、粗雑面の流動摩擦抵抗により、撰粒盤と共に上方に移動」させるものとされ、「本願発明においては、粗雑面を形成する凹凸の方向性については、特に意図するものがないものと認められるところ、成立に争いのない甲第四号証(被告特許の特許公報)によれば・・・・・穀粒を流樋の一側壁に対し一定角度をもって片寄せるとともに、さらに流動方向に流動させるという、該方向に一定角度傾いている方向性を有するものであり、したがって、この突起t1、t2を多数整列したものを有する第一引用例(成立に争いのない同事件の甲第五号証によると、その出願明細書である第二引用例も、この点においては同じ。)の流樋は、本願発明の粗雑面とは、その構成を異にするものといわざるをえない。」とされて、「粗雑面」と「被告特許の揺寄突起」とは、別の概念であると認定判断され、その結果、前記審決には、第一引用例(被告特許の特許公報)及び第二引用例の流樋の底面が原出願の発明の粗雑面の一種であるとしたことに事実誤認があり、そのことを理由の一つとして原出願の発明と第一引用例及び第二引用例記載のものの構成上の相違点を看過誤認したことを理由に審決が取り消された。

(一一)  昭和四九年五月二〇日 右判決の確定後、さらに抗告審判手続で審理中原出願から本件発明について分割出願がされた。右願書に添付された明細書中において、特許請求の範囲では、「粗雑盤面からなる撰別盤(1)」と表現され、発明の詳細な説明では、本件発明についての説明として、「表面が流動摩擦抵抗のあるザラツキ面に形成された撰別盤」と、また撰別盤の揺上作用について、「撰別盤の盤面に形成されているザラツキ粗雑面の流動摩擦抵抗と前述斜め上下の煽り運動の両作用」とそれぞれ表現され、更に図面第4図ないし第6図には、撰別盤の断面が表面とその上に置かれた穀物粒とともに表わされているが、これらの図によれば撰別盤の表面は細い波線で示されており、波線の凹凸の大きさは、穀物粒より大きくなく、形としても作用としても一定方向への方向性がある凹凸面であることはうかがわれない。

本件分割出願については、この後昭和四九年六月一七日付け、昭和五〇年一二月一五日付けをもってそれぞれ明細書全文の補正がなされたが、昭和四九年六月一七日付けの補正後の明細書においては粗雑面に関する右の各記載は変更がなく、昭和五〇年一二月一五日付けの補正後の明細書において、撰別盤は、特許請求の範囲では、「粗雑面をなし、横行程の両側に側壁を設けた撰別盤」と表現され、発明の詳細な説明では、「表面が流動摩擦抵抗のある粗雑面に形成された」と表現されたが、それ以上に粗雑面の意味を明らかにする補正はされなかった。

(一二)  昭和四九年七月二四日 原出願について、本願発明は特許する旨の審決がなされた。

(一三)  本件分割出願については、更に昭和五二年五月一二日付けで明細書の全文が補正された。

右補正後の明細書中の、特許請求の範囲には「粗雑面よりなる撰別盤」と表現され、発明の詳細な説明には、構成についての説明としては、「表面を粗雑面に形成した撰別盤」と記載されているが、従前技術の問題点の解決方法として、「公知例(被告特許の特許公報)のように撰別盤を揺動させて異種粒を分離する場合、その揺動方向を単なる水平揺動とせず、斜め上下の方向に揺動させて穀物をあおるようにすると盤面の突起群を、単なる突起群としても撰別できるので、撰別盤の製作はすこぶる容易になるばかりでなく、実際に製作してみると撰別性能まで向上できる。」と記載され、発明の効果として、「本発明は、撰別盤を揺動させるとき、斜め上下の方向Wに、あおるように揺動させるので、公知例のような方向性を有する突起でなくとも撰別出来るばかりでなく、」と記載されている。

(一四)  本件分割出願については、その後さらに明細書が補正されたうえ、昭和五七年二月二三日特許出願公告(特公昭五七-九八七二号)がされた。その内容は、本判決添付本件公報のとおりである。

(一五)  昭和六〇年一一月二九日本件特許登録がされた。

4  右3(九)に認定したところによれば、審決取消訴訟における原告の主張は、原出願の発明の「粗雑面」とは、「流動摩擦抵抗を生じるような、いわゆるザラ付き面」で、穀粒を押送する揺寄突起で限定された方向にのみ揺り寄せ得る突起は該当しないのであり(同(1))、「粗雑面の形状は、・・・各種のものが適用されるが、要するにザラザラしたもので、凹凸の程度は選別しようとする穀粒より決して大きなものでなく」、穀類と同等もしくはそれ以上の高さがあって押送できる構造であり、特殊な方向性が必須の要件である被告特許のものと別種のものである(同(3))というものであった。

これに対し、同訴訟の東京高等裁判所の判決も、原告の主張を容れて前記3(一〇)認定のとおり「本願発明の撰粒盤における粗雑面は、撰粒盤の縦の振動角βを有する縦振動の上向き行程において、玄米粒又は破麦粒は、粗雑面の流動摩擦抵抗により、撰粒盤と共に上方に移動」させるものとし、その上で「本願発明においては、粗雑面を形成する凹凸の方向性については、特に意図するものがないものと認められるところ、成立に争いのない甲第四号証(被告特許の特許公報)によれば・・・・・穀粒を流樋の一側壁に対し一定角度をもって片寄せるとともに、さらに流動方向に流動させるという、該方向に一定角度傾いている方向性を有するものであり、したがって、この突起t1、t2を多数整列したものを有する第一引用例の流樋は、本願発明の粗雑面とは、その構成を異にするものといわざるをえない。」として、原出願の発明の「粗雑面」と被告特許の揺寄突起とは構成を異にすると認定判断し、その結果、審決には、第一引用例(被告特許の特許公報)及び第二引用例の流樋の底面が原出願の発明の粗雑面の一種であるとしたことに事実誤認があることを理由の一つとして審決を取り消したものであって、この判決が確定することにより原告は原出願の拒絶を免れ、その後3(一二)のとおり特許する旨の審決がされたものと認められる。

5  原出願の出願当初の明細書及び図面の記載は前記3(一)認定のとおりであり、そこに用いられている「粗雑面」という用語の、一般用語あるいは学術・技術用語としての意味の検討は、本件発明における「粗雑面」の語について前記1に検討したところと同様であり、撰別盤の選別の原理から示唆される粗雑面の機能、形態も、本件発明について前記2に認定したところと同様である。

そうすると、原出願の発明の「粗雑面」とはその語を構成する漢字から「ざらざらしてなめらかでない面」と解されないわけではなく、原出願当初の明細書及び図面中には、多数の壷穴を押出した鉄板製のものの外、第6図のaないしcに表わされたものが「粗雑面」に含まれることが示されており、その内のbに表わされたものは一定の方向性を有するものであり、前記2に認定した機能、形態を有していれば足りると解されないわけではないが、右3、4に認定したような原出願の経過及び審決取消訴訟における原告の主張、判決の認定判断の内容を参酌すれば原出願の発明における撰別盤に形成された「粗雑面」とは、「流動摩擦抵抗を生じるようなザラザラした凹凸のある面で、凹凸の程度は選別しようとする穀粒よりも大きくなく、凹凸の形態において限定された方向にのみ揺り寄せることができるという方向性のないもの」をいうと解するのが相当である。

6  本件発明における「粗雑面」という文言の、一般用語あるいは学術・技術用語としての意味は前記1に検討したとおりであり、本件発明の撰別盤の選別原理から示唆される「粗雑面」の機能、形態は前記2に検討したとおりである。

本件特許出願は、原出願の拒絶査定に対する不服の抗告審判請求を成り立たないとした審決が東京高等裁判所の判決によって取り消され、同判決が確定後、さらに特許庁で抗告審判手続中に、原出願から分割出願されたものであることは前記4に認定したとおりである。

分割出願が適法であるためには、分割出願にかかる発明が、もとの特許出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されていること及び分割出願の際のもとの特許出願の願書に添付されている明細書又は図面にも記載されていることを要するものであること、及び、本件発明について分割出願ができたのは、原出願についての審決取消訴訟で、原告の主張を容れて審決を取り消した判決が確定し、さらに抗告審判の審理が行われたためであることを考慮すれば、本件発明の撰別盤の「粗雑面」の意味も、右5に判断した原出願の発明における「粗雑面」と同じく、「流動摩擦抵抗を生ずるようなザラザラした凹凸のある面で、凹凸の程度は選別しようとする穀粒よりも大きくなく、凹凸の形態において限定された方向にのみ揺り寄せることができるという方向性のないもの」をいうと解するのが相当である。

7  原告は、粗雑面の意味について事実摘示第四、一2(一)、(二)のとおり主張する。しかしながら、本件発明の選別原理のみからすれば、粗雑面の意味を原告主張のように解釈する余地があるとしても、原告は原出願の出願過程において、先行技術である被告特許などによる拒絶を回避するために、粗雑面の内容を3、4に認定したように限定して主張していたものであり、東京高等裁判所の判決も右の原告主張を容れて、その判決理由の一つとしていることも前記3、4認定のとおりであり、それらの事情を参酌、考慮すれば、本件発明の「粗雑面」の意味は、右6に認定のとおりに解するべきである。

原告は、流動摩擦抵抗の意味について、第四、一2(四)(3)のように主張する。しかしながら、撰別盤が穀粒を引っ掛ける場合には、揺上げ方向に作用する力は、摩擦による力が働くことによるものではなく、物体を直接押送する力であるから、流動摩擦抵抗という言葉の中に、穀物粒を突起に引っ掛けて揺り上げる場合も含むものと解することはできない。このことは仮に砕米などの場合には引っ掛ける作用が働くことがあるとしても、右は撰別盤の揺上作用としては、例外的な場合とみるべきものであるから、同様である。

8  当事者間に争いがない被告製品の別紙物件目録(一)ないし(四)、前記検甲第一号証並びに弁論の全趣旨によれば、被告製品の選別板21には突起54が多数整列配置されていて、その突起54は、板面からの立上がり角度約七〇度で、かつ高さ一・八ミリメートルで玄米粒を押送するA面66、及び、立上がり角度約二三度のB面が形成されていて、このA面が穀物粒の流下方向である横方向に対して約四〇度の角度を保って多数整列配置されていて、A面の頂上には長さ約三・八ミリメートルの頂端部分が形成されていること、米粒を板面に横たえたときのその高さは、概ね一・八ミリメートル程度であることが認められる。

右認定事実によれば、被告製品の突起54が多数整列配置された選別板の板面は凹凸のある面ということができるが、突起54は米粒とほぼ同等の高さを有し、米粒を押送する作用を有するものであって、流動摩擦抵抗を生ずるものではない点、また、板面からの立上がり角度約七〇度で玄米粒を押送する突起54のA面が穀物粒の流下方向に対して約四〇度の角度を保って多数整列配置されているものであって、限定された方向にのみ揺り寄せる方向性を有している点において、被告製品の選別板は、本件発明の構成要件Aの「粗雑面よりなる撰別盤」に該当すると認めることはできない。

9  原告は、被告製品の選別板の突起も摩擦抵抗作用によって盤面上の穀粒を揺上方向に往動させる旨事実摘示第四、一5(三)のように主張する。しかしながら、前記別紙物件目録(一)の第6図、検甲第一号証、成立に争いのない甲第三号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、突起54のA面ないしC面自体は、いずれもアルミニウム合金を素材とする滑面であり、またA面は流下方向に対し約四〇度の方向に向いていると認められ、これらの事実によれば、右A面に接触した穀物粒は、A面の向かっている方向、即ち流下方向に対し約四〇度の方向への押送力を受けると推認される。また前記検甲第二号証、とりわけそのうちの被告製品の選別状況を示す部分の録画開始から一五秒ないし三分一三秒の部分、六分四一秒ないし八分の部分、八分ないし九分三五秒の部分によれば、被告製品の実際の運転状態においても、選別板の押送力を受けた板面上の穀物粒は、ほとんどのものが、A面の向いている流下方向四〇度の方向に瞬間的に移動していると認められる。これらの事実によれば、被告製品の選別板上の穀物粒は、大多数のものは摩擦力によってではなく、突起54のA面の押送作用により揺り寄せられているというべきである。

仮に原告が主張するように、選別板上において複雑な動きをする穀物粒が、時としてA面又はC面と接触し、両者の間に相対運動が発生することがあるとしても、それらの面自体は前認定のようにアルミニウム合金を素材とする滑面であって、穀粒より小さく手で触れたときにザラザラとした感触を与える程度の大きさの凹凸の形状が付されているものではないから、結局粗雑面による摩擦力が働いているものではないので、右をもって被告製品の選別板上に粗雑面が形成されているということもできない。

原告は、甲第七号証に示された実験結果に基づき、事実摘示第四、一3のように主張する。しかしながら、原告が甲第七号証において示した実験結果は、被告製品の選別板を揺上側と揺下側を反対に取り付けて揺動させた場合は、選別板を五〇度の傾斜角度としたときに、流動摩擦抵抗が最大となるというものであるところ、そもそも右は被告製品の使用方法と異なる方法による実験結果である上、滑面の選別板であっても、ある程度の摩擦力が生じるものであることは当然推認されるところである以上、逆方向に取り付けても、ある条件下において選別が可能であるからといって、右により被告製品が当然「粗雑面」という要件を充足するものということができないことは明らかであるから、原告の右の主張も採用できない。

10  よって、その余の点について判断するまでもなく、別紙物件目録(一)ないし(四)に記載された被告製品は、いずれも本件発明の技術的範囲に属するということはできない。

六  以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 櫻林正己 裁判官宍戸充は、転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 西田美昭)

(本件公報)

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉特許出願公告

〈12〉特許公報(B1) 昭57-9872

〈51〉Int.Cl.3B 07 B 1/28 識別記号 庁内整理番号 6439-4D 〈24〉〈44〉公告 昭和57年(1982)2月23日

発明の数 1

〈54〉撰別機

審判 昭52-6035

〈21〉特願昭49-56342

〈22〉出願昭34(1959)2月3日

〈62〉特願昭34-3468の分割

〈72〉発明者 佐竹利彦

広島県賀茂郡寺西町大字西条東687の2

〈71〉出願人 株式会社佐竹製作所

東京都台東区上野1丁目19番10号

〈74〉代理人 弁理士 稲木次之

図面の簡単な説明

第1図は正面図、第2図は側面図、第3図は撰別盤1の断面図である。

発明の詳細な説明

本発明は揺動する選別盤を有する穀粒撰別機に関する。

揺動する撰別盤を有する穀粒撰別機としては、例えば、特公昭33-7659号公報に示すように、水平に位置させた撰別盤を水平方向に揺動させると共に、板面に穀粒を片側に片寄せる作用をする揺寄せ突起を多数設け、撰別盤の揺動方向に穀粒排出部を形成したものが知られている。

しかし、このものは、揺動が、略水平方向であるため、粒相互が分離しにくく、したがつて鋭敏な撰別ができず、実事上、浮沈による穀粒の分離は不可能であり、下層部の穀粒ばかりを一方に片寄せるので悪循環が起こり、穀粒の混流を防ぐことができない欠点があつた。

また、多数の通孔を形成した撰別盤を用い、この撰別盤の下方から前記通孔を通して通風する撰別機が知られているが、このものは、通風によつて穀粒間の間隙が粗大になり、このため、穀粒間の摩擦は問題にならず、空気流に対する抵抗に差の少ない、例えば、玄米粒と砕粒等の混合粒のように空気流に対する抵抗の差が小さく、穀粒間の摩擦に差のある穀粒撰別が不可能である。さらに、このものは、風のために穀粒が散乱して整流を妨げ、却つて撰別精度が低下することがあり、また、塵芥によつて通孔に目詰まりを生じた場合には撰別盤面に風の斑流を生じ、撰別性能に著しい悪響を及ぼす危険がある。

また、撰別性能を上げるために通孔盤を多段に重ねると、上下の撰別盤によつて空気の流れが不均一となり、したがつて撰別作用も不均一になり、これを解消するために各撰別盤の間隙を大きくすると全体の高さが過大となつて構成重量も大となり、構造が複雑になると共に揺動部の重心位置が高くなつて振動に対し不安定となる欠点がある。

本発明は前記の欠点を解消し、撰別盤を無孔とすることによつて、穀粒間の密度を大にし、その斜め上下の揺動によつて穀粒間の摩擦を利用しながら穀粒の分離をうながして撰別を行い、玄米粒に対する砕粒等の混合粒のように空気流に対する抵抗に差が小さく、穀粒間の摩擦に差のある穀粒の撰別でも可能になり、かつ撰別作用に目詰まりや散流を生じないで、安定した撰別ができ、しも、単一無孔撰別盤では得られない撰別能力が得られると共に、各撰別盤の間隙を小さくすることができるので、全体の高さが低く振動に対する安定性があり、通風のための装置を必要としないので構造が簡単になり重量も小さくてすむ撰別機を提供することを目的とするものである。

次に本発明の実施例を説明すると、1、1は表面を無孔の粗雑面に形成した撰別盤で、多段状に重架され、一方を供給側H、反対側の他方を排出側Lとし、穀物は供給側Hから排出側Lに向う横行程に徐々に流出するように構成し、供給側Hの上方に混合粒供給タンク16を取付け、各段の撰別盤1、1に均等に穀物を供給しうるごとくなし該撰別盤1、1は支台2上に載置するとともに支台2ごと左右側(第1図のX-X線の方向)に斜め上下の往復運動Wをなすごとく構成する。実施例は斜めの支杆12、12を用いた応用例を示し、支台2に斜めの支杆12、12の上端を軸着6し、支杆12、12の下端は固定台枠13上に軸着7し、支台2の側方には支枠17を設け、支枠17に取付けた偏心輪14のロツド15の突出端を支台2に軸着する。しかして、撰別盤1、1の左右側のうち、一方側には、穀物が突当ることによつて隆積される側壁3を設け、その反対側には落粒防止用側壁4を設け、撰別盤1、1の排出側Lには穀物の過剰流出防止壁5を設け、雑粒混合穀物前述両側壁3、4にそれぞれそつて徐々に流出前記防止壁5により隆積した状態のまま排出されるごとくし、排出側Lの両側方に異種粒の流出口8、8、9、9を形成し、排出側Lの中間位置には、中間粒子の流出口10を設けたものである。流出口10には防止壁5にそつて左右側に移動する壁板11を設ける。

籾米粒と玄米粒の混合粒を供給タンク16より各段の撰別盤1、1…の供給側Hに均等に供給し、偏心輪14を回転させて撰別盤1、1を揺動させると、支台2を取付けている支杆12、12が斜めに軸着6、7されている関係上、矢印Wのごとく左右側に斜め上下動をすろ。したがつて、撰別盤1、1は、そのHL間を流動する穀物に対して左右方向に斜め上下の往復揺動Wをすることになる。しかして、斜め上下のあおり運動をうけた混合粒は第一次現象として比重の大なる玄米粒は下沈下し、比重の小なる籾粒は玄米粒の上層を存上する。そして下層に沈下した玄米粒は、第二次現象として、側壁3方向に揺寄せられて隆積し、上層に浮上した籾粒は、その反動で反対側に偏流し、この状態を保ちながら、徐々に、排出側L方向に流動し、玄米は、第1図のE1線のごとく流動して排出される。籾粒は、逆にE3線をもつて表示したごとく揺下側に向つて集合して落粒防止用側壁4にそつて偏流する。分離されない混合中間粒E2のように排出される。

以上の説明から明らかなように、本発明は、撰別盤を無孔とすることによつて、穀粒間の密度を大にし、その斜め上下の揺動によつて穀粒間の摩擦を利用しながら穀粒の分離をうながして撰別を行い、玄米粒に対する砕粒等の混合粒のように空気流に対する抵抗に差が小さく穀粒間の摩擦に差のある特殊な混合穀粒でも高精度の撰別ができ、かつ、撰別作用に目詰まりや散流を生ぜず、安定した撰別ができ、しかも、単一無孔撰別盤では得られない撰別能力が得られると共に、各撰別盤の間隙を小さくすることができるので、全体の高さが低く振動に対する安定性があり、通風のための装置を必要としないので、構造が簡単となつて重量も小さくてすむ撰別機を提供できるものである。

〈57〉特許請求の範囲

1 一方側を供給側Hとし、供給側Hに対する反対側他方を排出側Lとし、供給側Hを高く、かつ排出側Lを低く配置することにより、供給側Hより排出側Lに向つて異種混合穀物粒が徐々に流動するように構成した粗雑面よりなる無孔の撰別盤1に、穀物粒の前記流動する方向に対して左右側の方向に斜上下の往復動を与えると共にその揺上げ側に側壁を設け、もつて、撰別盤上の混合粒のうち、比重の大なる穀物粒を揺上側H1方向に隆積させ、比重の小なる穀物はその反動で反対側に偏流させて分離させるようにしたものにおいて、前記無孔の撰別盤1を複数段多段状に重架させてなる撰別機。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

(被告特許公報)

特許庁 特許出願公告

3 D 412 (72 C 1)

特許公報 昭33-7659

公告 昭33.8.30 出願 昭31.7.26 特願 昭31-19601

発明者 石内勝 松山市八代町30

出願人 井関農機株式会社 同所

揺動籾選別機

図面の略解

第1図は本発明の実施例を示す斜側面図、第2図は揺寄せ突起の平面、及びそのaa、bb線の断面図である。

発明の詳細なる説明

本発明は揺動運動を以て、穀粒を流動させ乍ら穀粒の選別をなす流樋の改良にして、流樋面上の穀粒の流動方向線に対して、揺寄せ突起の頂端線が穀粒を斜横又は側横に押送作用をする如き、傾斜角度、即ち60度より平行0度角に至る迄の適宜角度のものを数多く整列せしめる事を特徴とする流樋を一段又は段階式複数的に穀粒を通過させる揺動籾選別機にして、即ち図面により詳記すれば、第1図に於て1は流樋にして、該樋は調車2の主軸3の側端に嵌着されているクランク4により、クランクロツド5を経て可動支持杆6を以て支持されている流樋1に矢印W又はW’の如く往復揺動運動をさせ、その揺動運動によつて穀粒が流樋1内を矢印Hの示す方向線に向つて流動する様に推進させるのである。而して該樋底7には該揺動運動により流動させると同時に、穀粒を片側一定方向に片寄せる作用をする揺寄せ突起t1、t2を多数整列構設させてあり、これは第2図に示す如く流樋底7より起仰角θをもつ突起t1、t2の頂端線8、8'は流樋1内の穀粒流動方向線Hに対して平行の0度角より60度角程度に至る角度αのものを、穀粒品質及び混入状態に応じて適当なる角度αに制定配置するのである。然る時流樋1の一端より穀粒を適当量投与して揺動運動を加える時は、穀粒層は矢印Hの如く流動すると同時に籾粒と玄米粒との粒表面の摩擦度の差異により、玄米粒は低層部に沈下し、籾粒は上層部に浮上する性質を利用して、その沈下している玄米粒のみに対し、揺動運動を更に2次的に突起t1、t2の頂端線8、8'を以て右側或は左側に片寄せる作用をさせるのである。而してその作用を連続させる時は、右寄せなれば右、左寄せなれば左の側壁9、9'に沿つて玄米粒は高積みされる傾向となり、揺動運動を更に3次的の作用としての側壁9、9'の揺動衝撃を以て、高積層の上層粒を流樋1の内部方向に向つて押し崩し、その玄米粒は更に底部に沈下する為、浮上する籾粒は玄米粒の揺寄せられたる反対側に片寄せられるのである、即ち前述の1、2、3次作用を繰返す時は流樋1内を流動するに従い左右側端部に夫々完全なる玄米及び籾粒層に分離選別されるのである。

前述の如く、一揺動運動を各分業的に且複合的に作用させる為その効果は大且確実なるものであるが、分離されている穀粒層も分離境界中間部分は分離、混合、相半ばするものである故、左右の完全分離せるもののみは別々に流樋1外に誘導流出させて完全選別粒を得るのであつて、中間部分の混合粒層は当初の供給混合粒に合流させて反復操作する事により連続選別作業が行われるのである。この如くする時は適確に高速なる選別効果を発揮し、構造簡易、且堅牢、而も機械容積が極度に狭小に成し得られる等効果大である。

特許請求の範囲

流樋の流動方向線に対し横斜或は横にのみ穀粒を揺寄せ得る角度を有する頂端線をもつ揺寄せ突起を樋流底面に多数整列せる揺動籾選別機。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

(原出願当初明細書)

明細書

1、発明の名称 撰別機

2、図面の略解

図面は本発明用の例図である。第1図は側面図、第2図は平面図、第3図は正面図、第4図は斜面図、第5図は粒子の流動を説明した撰粒盤平面図、第6図は撰粒盤の拡大部分図、第7図は応用例図である。

3、発明の詳細なる説明

本発明は粗雑面をなす撰粒盤を横方向に傾斜して縦に振動せしめ該盤上の横方向の一側に供給する雑粒混合粒体を横の他側方向に流動せしめ且該盤の縦方向の両側に異種粒を偏流しない任意っ塚てに撰出することを特徴とする撰別機である。

例図について1は多数の壷穴を押出した鉄板製の粗雑面撰粒盤で縦横共に傾斜して支伜2に装着され支伜2と共に支杆3、3'及び4、4'によつて縦方向に提高揺動するように装架され第4図、第5図に見るように撰粒盤1の縦方向の高側縁H1、低側縁L1には夫々撰別流路をなす側壁5及び6を設け撰粒盤1は支枠2に連なるエキセントリツク装置7により縦に揺動する。8は給粒用タンク、9は撰粒盤1の横側端部に於て位置を移調節するよう壁板10に設けた流出口である。

第6図は撰粒盤の応用例でaは多孔板を無孔板と接着したもの、bは圧搾して凹凸面を形成したもの、cは金を無孔板と接着したものであるが撰粒盤には多孔壁を用いてもよい。

本発明の作用を実施例について説明すると先づ給粒用タンク8から雑粒混合原料例えは籾玄米の混合粒或は完全麦粒と砕麦粒の混合粒を撰粒壁1の横方向の一側中央部H2附近に供給すると縦に揺動されながら縦中間盤面を横方向の他側部L2に向い流動するが第5図の如くH2とL2間の行程に於て穀粒は連続的にその点線矢印の横流れの両側方即ち黒線矢印、白線矢印の縦の両側方に夫々偏流され籾又は完全麦粒は縦高部白線矢印に、玄米又は砕麦粒は反対の縦高部黒線矢印に偏流する。即ち盤1の揺動角βにより粒大又は流動抵抗の大なる籾とか完全麦粒若しくは長粒子は出口方向に偏流せずに向い偏流下し転動し易い玄米粒や砕麦粒は盤1の揺動角βで粗雑面の抵抗によつてH1に向押進されると共に盤1がし方向に復する瞬間その関係位置にズレを生じ盤1に対してH1の縦方向に前進しこの振動運動を反復するので事続的に籾と玄米或は完全麦と砕麦は縦両側方に偏流され夫々の側壁5、6に沿い横の他側部L2の端部に於ける部L3とL4とに夫々籾と玄米を撰出し又は夫々完全麦粒と砕麦を撰出する。而してL3とL4間にはそれぞれの中間粒子が流出する。籾と玄米ならその混合粒又完全麦粒と砕麦ならその中間粒大の砕麦粒が流出する。従つてL2部の流出口を分割すれは撰別粒の種類も亦これによつて定まる訳である。

この発明は従来の揺動撰粒機のように次々に供給する新しい混合粒と先に供給された古い混合粒とが合流することがない。即ち従来のものでは低方向に撰出されるべき粒子が仮に高方向にした場合逆流しようとしても次々に新しく供給される混合粒子と合流し混乱を来すので撰別純度が向上しない。従つて撰別感度も鈍く又能率も恵く籾玄米特に熱帯種の籾玄米の撰別とか土砂と米の撰別等従来機では完全撰別の不可能な粒子が沢山ある。勿論本発明穀物に限らず一般粒体群の精密撰別にも応用する。

本発明は一旦撰別作用を受け始めた粒子に対しては新しい不純原料の混合する欠陥がなく横行程を徐々に流下するにつれて純度が昂進し縦の両側に分離移流するにつれてH1、L1間の中間行程を横流する穀量も減少しますます撰別を容易にする。換言すると従来の揺動撰別機は凡て供給される混合粒とこの中から分離される分離粒とが悉く縦方向にのみ流れるので混合粒群の純度が向上しにくいがこの発明は混合粒を横に流しこの中から分離される異種粒を夫々縦の正逆双方向に分流するので混合粒は横に流れながら分離されただけその流量を減じ同時に逐次純度を高めて行くからますます縦方向の分離を容易にする。即ち一般のものでは分離基点が定位置にあつて常に新しい不純原料に攪乱されるのに対しこの発明では分離基点が分離方向とは別の方向に即ち縦の分離方向に対し横の方向に変移廷長し分離基線として軌跡をなしている。

本発明は一旦供給した混合原料を撰別するのにの二方に分離偏流する異種粒が再び新しい不純な供給原料と混合して混乱を来すことがなく純度を高める一方てあると共盤は作にさなていながら、H1の方向に個量に混合こは特にの偏流速度がし敏感に能率的な撰別を行い得る効果を有するものである。因に本文に用いる「縦」「横」即ち「経」「緯」は単なる相対的な用語に過ぎず直角若しくは直角に近い二方向の各々に関する性質を説明するための方便であるから夫々を逆に形容しても差支ない。

尚本発明の応用例について更に考察すると次の如きものがある。

AD.撰粒盤を二段又は数段に重架して直列又は並列行程を構成し撰別能力を増大する。

BE.撰別盤の振動数を変えて撰別機能を調節する。

CF.撰別盤を多孔壁で構成し下方から送風して粒体に浮力を与え撰別機能を合理化する。

本発明は比重差の的異種粒子の他に粒大撰別にも応用きれる

特許請求の範囲

粗雑面をなす撰粒盤を横方向に傾斜して縦に振動せしめ該盤上の横方向の一側に供給する雑粒混合粒体を横の他側方向に流動せしめながら該盤の縦方向の両側に異種粒を偏流しをがう任意に場所に撰出することを特徴とする撰別機。

出願人の氏名 佐竹利彦

(原出願当初図面)

〈省略〉

(原出願の出願公告公報)

〈51〉Int.Cl. 〈52〉日本分類 3 D 412 72 C 11 〈19〉日本国特許庁 〈11〉特許出願公告

昭35-14468

特許公報

〈44〉公告 昭和35年(1960)10月3

発明の数 1

〈54〉撰別機

〈21〉特願 昭34-3468

〈22〉出願 昭34(1959)2月3日

〈72〉発明者 佐竹利彦

広島県賀茂郡寺西町大字西条東687の2

〈71〉出願人 株式会社佐竹製作所

東京都千代田区神田松富町2

図面の略解

図面は本発明の例図である。第1図及び第1A図は側面図、第2図及び第2A図は平面図、第3図及び第3A図は正面図、第4図及び第4A図は斜面図、第5図は粒子の流動を説明した撰粒盤平面図、第6図は撰粒盤の拡大部分の応用例図である。

発明の詳細なる説明

本発明は粗雑面をなし、横行程の両側に側壁を設けた横に傾いた撰粒盤に縦の揺動角を有する縦振動を与え該盤上の横行程に雑粒混合粒体を流動せしめ該横行程の両側に異種粒を徐々に偏流分離させ、横行程の末部に設けた流出口から任意の場所に誘導撰出することを特徴とする撰別機である。

例図について説明すると1は多数の壺穴を押出した鉄板製の粗雑面撰粒盤で横に傾斜して支枠2に装着され支砕2と共に支枠3、3’及び4、4’によつて縦方向に揺動角βをなして振動するように装架され第4図、第5図に見るように撰粒盤1の縦振動の押上げる方向即ち高くなる方向の側縁H1とその反対側縁L1には夫々撰別流路をなす側壁5及び6を設け撰粒盤1は支枠2に連なるエキセントリック装置7により縦に振動する。

8は給粒用タンク、9は撰粒盤1の横側端部に於て位置を移動調節するよう壁板10に設けた流出口である。

第6図は撰粒盤の応用例でaは多孔盤を無孔板と接着したもの、bは圧搾して凹凸面を形成したもの、cは金網を無孔盤と接着したものであるが撰粒盤には多孔壁を用いてもよい。

本発明の作用を実施例について説明すると先つ給粒用タンク8から雑粒混合原料例えば籾玄米の混合粒或は完全麦粒と砕麦粒を撰粒盤での横方向の一部H2附近に供給すると縦に揺動されながら縦の中間盤面を横方向の他側部L2に向い流動するが第5図の如くH2とL2間の行程に於て穀粒は連続的にその点線矢印の横流れ行程の両側方即ち黒線矢印及び白線矢印の縦の両側方に異に種粒を徐々に偏流され、籾又は完全麦粒は縦白線矢印に、又玄米或は砕麦粒は反対の縦黒線矢印に流する。即ち盤1の揺動角βにより粒大又は流動抵抗の大なる籾とか完全麦粒若しくは長粒子はH1の方向には偏流せずL1に向い偏流し転動し易い玄米粒や砕麦粒は盤1の揺動角βと盤1の粗雑面の抵抗によつてH1に向い押進されると共に盤1がL1方向に復する瞬間その関係位置にズレを生じ盤1に対してH1の縦方向に前進し玄米又は砕麦粒がH1の方向に偏流して側壁5により隆積するとその反動で籾又は完全麦粒はL1の方向に偏流しこの振動運動を反復するので連続的に籾と玄米或は完全麦粒と砕麦粒或は完全米粒と砕米粒等は縦の両側方に向い偏流され夫々の側壁5、6にそい横の他側部L2の末部両側における流出口L3とL4とに夫々籾と玄米又は完全麦粒と砕麦粒又は完全米粒と砕米粒等の異種粒子を撰出するものである。

而してL3とL4間にはそれぞれの中間粒子が流出する。例えば籾と玄米ならその混合粒、又は完全穀粒と砕穀ならその中間粒大の砕穀粒が流出される。従つてL2部の流出口を分割すると撰別粒の種類も亦これによつて定まる訳である。本発明では穀粒以外の粒子撰別にも応用され又比重選に限らず粒大撰別にも応用して同様の撰別機能を発揮する。

この発明は従来の揺動撰別機のように次々に供給する新しい混合粒と先に供給された古い混合粒とが合流することがない。

即ち本発明では一旦撰別作用を受け始めた粒子に対しては新しい不純混合原料の混合して来る欠陥がなく横行程を徐々に流下するにつれて純度が昂進し縦の両側に分離移流するにつれてH1、L1間の中間行程を横流する穀量も減少しますます撰別作用を促し容易にする。

要するにこのように特殊な新規な機能を発揮するには粗雑面となし、横行程の両側に側壁を設けた横に傾いた撰粒盤を揺動角を以て縦に振動せしめこの盤上を横方向に流動するよう穀粒を流し、横行程の両側に夫々異種粒を偏流分離せしめ、その中間に中間粒子を流出させることを絶対必須条件とするものであり且本発明の要旨とするものである。

従来のものでは低方向に撰別されるべき粒子が仮に高方向に移流した場合もう一度逆流して正しい方向に向かおうとしても次々に新しく供給される混合粒子と合流し混乱を来すので撰別純度を向上することは出来ない。従つて撰別感度も鈍く又能率も低く籾玄米特に熱帯種の籾玄米の撰別とか軽土砂と米の撰別等従来機では完全撰別の不可能な粒子が沢出ある。

今更に従来機と本発明の特性的機能を比較して詳述すると従来の揺動撰別機は凡て供給される混合粒とこの中から分離される分離粒とが悉く縦方向にのみ流れるので混合粒群の純度が向上しにくいがこの発明は混合粒を横に流しこの中から分離される異種粒を夫々縦の正逆双方向に分流するので混合粒は横に流れながら分離されただけその流量を減じ同時に逐次純度を高めて行くからますます縦方向の分離を容易にする。即ち一股のものでは分離基点が定位置にあつて常に新しい不純原料に攪乱されるのに対しこの発明では分離基点が分離方向とは別の方向に即ち縦の分離方向に対し横の方向に変移延長し分離基線として軌跡をなしている。

本発明は一旦供給した混合原料を撰出するのに横に流れながら縦の両側に分離偏流する異種粒が再び新しい不純な供給原料と混合して混乱を来すことがなく純度を高める一方であるから敏感に能率的な撰別を行い得る効果を有するものである。

尚本発明の撰粒盤の縦傾斜の角度は任意でありこの角度は0°でも差支なく従つて撰粒盤は縦に水平の場合もあり常にα<βであれば何れも本発明の要旨に変りはない。ただし、βは0になることはない。

因に本文に用いる「縦」「横」即ち「経」「緯」は単なる相対的な用語に過ぎず直角若しくは直角に近い二方向の各々に関する性質を説明するための方便であるから夫々を逆に形成しても差支はない。

尚本発明に用いる撰粒盤の縦の傾斜角は基本的な要素ではないが粒子の種類振動数又は撰粒盤粗雑面の粗密度等により順変する係数であるから0°から45°位の範囲に調節するよう調節装置を施す場合が多い。

本発明の応用例を挙げてみると次の通りである。

A 撰粒盤を二段又は数段に重架して直列又は並列行程を構成し撰別能力を増大する。

B 撰粒盤の振動数を変えて撰別機能を調節する。

C 撰別盤を多孔壁で構成し下方から送風して粒体に浮力を与え撰別機能を合理化する。

〈57〉特許請求の範囲

粗雑面をなし、横行程の両側に側壁を設けた横に傾いた撰粒盤に縦の揺動角を有する縦振動を与え該盤上の横行程に雑粒混合粒体を流動せしめながら徐々に該横行程の両側に夫々異種粒を偏流分離させ、横行程の末部の両側に異種粒の流出口を、その中間に中間粒子の流出口を設け、これらの流出口より適宜の場所に誘導撰出することを特徴とする撰別機。

第1図

〈省略〉

第1A図

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第2図

〈省略〉

第2A図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第3A図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第4A図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

第6図

〈省略〉

物件目録〔一〕

被告製造に係るMS250型籾摺選別機

1 図面の簡単な説明

第1図は右籾摺機の全体斜視図

第2図は同要部縦断正面図

第3図は同選別部の斜視図

第4図は同縦断正面図

第5図は同右側面図

第6図は中央部を切欠いた選別板の平面図

第7図(1)、(2)、(3)、(4)は突起の形状を示す写真

第8図は第7図のX-X断面図

第9図は第7図のY-Y断面図

2 符号の説明

1…籾摺室、2…固定回転籾摺ロール、3…移動回転籾摺ロール、4…供給ホッパー、5…風選室、6…吸引ブロワー、7…底壁、8…一番コンベア、9…二番コンベア、10…昇降機、11…バケットエレベーター、12…排出筒、13…貯留タンク、14…リンク、15…リンク、16…バネ、17…ロッド、18…調節弁、19…分配供給樋、20…揺動選別部、21…選別板、22…誘導部、23…側壁、24…玄米仕切板、25…籾米仕切板、26…玄米取出口、27…籾米取出口、28…混合米取出口、29…載置枠、30…左斜杆、31…右斜杆、32…軸、33…軸、34…台枠、35…軸受体、36…軸、37…軸、38…手動ハンドル、39…軸、40…左ネジ部、41…右ネジ部、42…コマ、43…コマ、44…調節ロッド、45…調節ロッド、46…軸、47…軸、48…コマ、49…コマ、50…軸、51…軸、52…クランク軸、53…ロッド、54…突起、55…頂端部分、56…籾米誘導筒、57…混合米誘導筒、58…除糠網、59…仕上米案内樋、60…仕上米スロワー、61…籾米戻しスロワー、62…上端開口部、63…戻し室、64…シャッター、65…選別板マーカー、66…A面、67…B面、68…供給口、69…C面、70…D面。

3 構造の説明

(1) 全体の構造

1は籾摺室、内部に固定回転籾摺ロール2と移動回転籾摺ロール3が軸装される。4は籾摺室1上部の供給ホッパー、5は籾摺室1下部の風選室で、風選室5終端部には吸引ブロワー6が取付けられる。7は風選室5の底壁で、底壁7上には一番コンベア8、二番コンベア9がそれぞれ軸装される。

10は昇降機、11は昇降機10内に設けたバケットエレベーター、12は昇降機10の排出筒、13は排出筒12の下部に取付けた貯留タンクで、貯留タンク13はリンク14、15により上下動自在に取付られ、バネ16により排出筒12から吊設される。17はロッドで、その上端は貯留タンク13に軸止され、その下端は供給ホッパー4の流出口に設けた調節弁18に軸止され、貯留タンク13が上動すると調節弁18は開く方向に動き、貯留タンク13が下動すると調節弁18は閉じる方向に動く。

貯留タンク13の下方には、選別板21を二枚重ねにして備えた揺動選別部20を設ける。

56は籾米誘導筒、57は混合米誘導筒、58は付着糠を除去する除糠網、59は仕上米案内樋、60は仕上米スロワー、61は籾米戻しスロワー、62は籾米戻しスロワー61の上端開口部、63は戻し室、64はシャッターである。

(2) 揺動選別部の構造

選別板21の上方には、分配供給樋19を貯留タンク13の下方に位置させて設け、各段の選別板21に混合米が分配供給されるように分配供給樋19の終端部に各段の選別板21に至る誘導部22を形成する。

選別板21は、アルミニウム合金の無孔の薄板からなり、後側を供給側H、前側を排出側L、右側を右側U、左側を左側Dとし、上方からみると前後側がやや長い長四角形状であり、供給側Hは排出側Lより高く、右側Uは左側Dより高く、二方向に傾斜している。

選別板21の板面には、以下の突起54が多数形成されている。

縦 約6・5mm

横 約8・0mm

高さ 約1・8mm

頂端部分55の前後方向に対する傾斜角度 約40度

A面66の選別板面に対する立上り角度 約70度

B面67の選別板面に対する立上り角度 約23度

C面69及びD面70の選別板面に対する立上り角度 約65度

また突起54は、10cm四方に約一一六個の割合で、長手方向に直交する方向は約1・8mmの間隔、長手方向は約2・4mmの間隔を置いて、千鳥状に形成されている。

選別板21には、排出側Lを除いて直角起立状の側壁23が設けられる。選別板21の排出側Lは全幅に亘って解放され、その外方に右側Uから中央部に亘って左右方向に移動調節できる玄米仕切板24、及び左側Dの近傍で左右方向に移動調節できる籾米仕切板25をそれぞれ設け、玄米仕切板24の右側に玄米取出口26を、玄米仕切板24と籾米仕切板25の間に混合米取出口28を、籾米仕切板25の左側に籾米取出口27をそれぞれ形成する。

前記選別板21は載置枠29上に二枚重ねられ、載置枠29には左斜杆30の上端を軸32により、右斜杆31の上端を軸33によりそれぞれ軸止する。左斜杆30の下端は台枠34の上面に設けた軸受体35に軸36で軸着される。右斜杆31の下端は台枠34の上方位置に設けた軸37に軸着される。左斜杆30と右斜杆31とは平行関係に位置し、軸32と軸36との距離は軸33と軸37との距離と等しくされている。

軸37の下方位置には手動ハンドル38で回転する軸39を設け、軸39には左ネジ部40と右ネジ部41を形成し、左ネジ部40にはコマ42を、右ネジ部41にはコマ43をそれぞれ螺合し、コマ42には調節ロッド44の下端を軸46により、コマ43には調節ロッド45の下端を軸47によりそれぞれ軸着する。

調節ロッド44、45の上端は軸37に設けたコマ48、49にそれぞれ軸50、51により軸止し、手動ハンドル38を回転させることにより、選別板21は右側Uを高く水平面に対して8度から13度の範囲の所定の角度に設定するように調節される。台枠34に設けた軸受体にクランク軸52を軸架し、クランク軸52と軸32とをロッド53で連結する。

左斜杆30は、軸36を基部とし、垂直線に対し左に30度傾斜して設けられ、クランク軸52の回転によりその角度から左右両方向にそれぞれ7度の範囲で往復揺動する。即ち、軸32は軸36を中心として往復円弧運動をし、その円弧の接線方向は、選別板21が水平線に対し右上りに8度傾斜しているとき、その板面に対して右上りに15度から29度の範囲にあり、選別板21が水平線に対し右上りに13度傾斜しているとき、その板面に対して右上りに10度から24度の範囲にある。

65は選別板マーカーで、左側Dの排出側Lで板面上方の位置に設けてある。68は選別板21の右側Uの側壁23の供給側H寄りに開口した供給口である。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

第6図

〈省略〉

第7図(1)

〈省略〉

第7図(2)

〈省略〉

第7図(3)

〈省略〉

第7図(4)

〈省略〉

第8図

〈省略〉

第9図

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物件目録〔二〕

被告製造に係るMS310型籾摺選別機

1 図面の簡単な説明

物件目録〔一〕に同じ

なお、第6図乃至第9図は、物件目録〔一〕の第6図乃至第9図と同一である。

2 符号の説明

物件目録〔一〕に同じ

3 構造の説明

(1) 全体の構造

左の傍線部分以外は、物件目録〔一〕に同じ

「貯留タンク13の下方には、選別板21を三枚重ねにして備えた揺動選別部20を設ける。」

(2) 揺動選別部の構造

左の傍線部分以外は、物件目録〔一〕に同じ

「前記選別板21は載置枠29上に三枚重ねられ、載置枠29には左斜杆30の上端を軸32により、右斜杆31の上端を軸33によりそれぞれ軸止する。」

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

物件目録〔三〕

被告製造に係るMS410型籾摺選別機

1 図面の簡単な説明

物件目録〔一〕に同じ

なお、第6図乃至第9図は、物件目録〔一〕の第6図乃至第9図と同一である。

2 符号の説明

「60…仕上米スロワー」を「60…仕上米昇降機」と変更する以外は、物件目録〔一〕に同じ

3 構造の説明

(1) 全体の構造

左の傍線部分以外は、物件目録〔一〕に同じ

「貯留タンク13の下方には、選別板21を四枚重ねにして備えた揺動選別部20を設ける。

56は籾米誘導筒、57は混合米誘導筒、58は付着糠を除去する除糠網、59は仕上米案内樋、60は仕上米昇降機、61は籾米戻しスロワー、62は籾米戻しスロワー61の上端開口部、63は戻し室、64はシャッターである。」

(2) 揺動選別部の構造

左の傍線部分以外は、物件目録〔一〕に同じ

「前記選別板21は載置枠29上に四枚重ねられ、載置枠29には左斜杆30の上端を軸32により、右斜杆31の上端を軸33によりそれぞれ軸止する。」

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

物件目録〔四〕

被告製造に係るMS510型籾摺選別機

1 図面の簡単な説明

物件目録〔一〕に同じ

なお、第6図乃至第9図は、物件目録〔一〕の第6図乃至第9図と同一である。

2 符号の説明

「60…仕上米スロワー〕を「60…仕上米昇降機」と変更する以外は、物件目録〔一〕に同じ

3 構造の説明

(1) 全体の構造

左の傍線部分以外は、物件目録〔一〕に同じ

「貯留タンク13の下方には、選別板21を五枚重ねにして備えた揺動選別部20を設ける。

56は籾米誘導筒、57は混合米誘導筒、58は付着糠を除去する除糠網、59は仕上米案内樋、60は仕上米昇降機、61は籾米戻しスロワー、62は籾米戻しスロワー61の上端開口部、63は戻し室、64はシャッターである。」

(2) 揺動選別部の構造

左の傍線部分以外は、物件目録〔一〕に同じ

「前記選別板21は載置枠29上に五枚重ねられ、載置枠29には左斜杆30の上端を軸32により、右斜杆31の上端を軸33によりそれぞれ軸止する。」

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

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第4図

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第5図

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特許公報

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特許公報

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特許公報

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